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■少年は隘路を廻る■
真虚混濁【X】

「どういうこと?」

 要一が首を傾げると、美鶴は彼を真っ直ぐに見、

「…先輩には黙ってましたが、松永さん、中学の時から変な噂があったんです」
「へぇ、どんなん?」

 正面で慶司に訊ねられれば、興味津々な反応の彼を一瞥し、

「…何だか、未成年が入っちゃいけない店でバイトしてるとか、男をとっかえひっかえしてるとか…。証拠も確証もないし、学校での態度は優等生そのものだから、先生も噂は信用してなくて、大きな問題にはなってなかったみたいです」
「…へぇぇ。かなりの遣り手とみたね。凄い大物。要一惜しいことしたなぁ」
「でしょ先輩!俺もそう思う訳〜。俺学校違うけど、有名っすよ」
「…噂は噂だろ。それが本当とは限らない。其処まで知るまで付き合えなかったんだから」
「…やっぱ振られたんだろ。」
「あんたは一言多い!さっきから…」

 何だかんだ言いつつも、凉も栞も何処かしら愉しそうだ。
 学校の代表と言えど、要一の話題は、十代そこらの少年少女には美味しい肴らしかった。

 集会の目的がすっかりすり替わっていることに「バカ真面目」橘要一は、小さく嘆息して、一番食い付きの良い会長を見遣って言い放つ。

「…慶司、こんなことを話すために集まったんじゃないだろう?塾に行く者もいるんだから、早く済まさないといけないんじゃないか?」

 表情を変えず指摘する彼に、慶司は詰まらなそうに口を尖らせた。

「…そう来る訳?ったく、つくづく真面目な奴だぜ」
「真面目すぎて丁度良いだろ?ほら、始めてくれ」

 机上に乗っていた資料を手渡すと、慶司は深く吐息したものの、紙を受け取ると噂好きの一生徒から生徒会長の顔に変貌した。
 慶司の表情に、他の面子も資料を取る。その態度はつい数秒前迄噂話に花を咲かせていた若人達ではなかった。

 お気楽樋田聖陽は不服そうな様子だったが、全体的に会合の雰囲気に変化した為、要一は安堵する。漸く皆本日の議題を思い出したらしかった。

 正直、梨恵とのことを詮索されるのは好まない。四月からの付き合い、そして昨日の出来事は個人の問題である。
 既に済んだことなのだから、尚更だ。

 里耶は普段と変わらぬ態度で接して来る。梨恵も姿さえ見せない。自分も余計なことは考えないようにしている。
 今は自らの仕事に熱中することが最重要なのだ。

 本日の議題が記載された用紙とスケジュール表を睨み付け、彼は残された役目を果たすべく、慶司の声に耳を傾けた。

 太陽は西に傾き、空は赤みを帯びつつある中、時は刻々と過ぎていく。



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あきゅろす。
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