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■少年は隘路を廻る■
真虚混濁【W】

 日も傾きかけた放課後、役員が生徒会室に集合した。

 生徒会は要一を入れて六人で構成される。二年は四人、補佐の形で一年が二人だ。問題がなければ補佐のどちらかが時期生徒会長として推薦されることになっている。その最終決定を下す権限があるのが生徒会長である。他の事柄に関しても、当然会長抜きには決められない。

 しかし――
 時間になっているというのに、その生徒会長が一向にやって来ない。正直、珍しいことではないのだが、そういう問題ではない。あと数分待って来なかったら自分が代理として始めるぞ、と副生徒会長である要一がやきもきしていると、いきなりドアが開いた。漸く来たかと思う間もなく、件の会長は入ってくるなり、脇目も振らず目を輝かせて、

「今朝はどうしたんだよ、要一!」

 肩を叩きながら、含みを持たせた笑みを湛えてそう言い放った。結構な長身なので、突然頭上から覗き込まれるのは迫力だが、慣れている要一は一瞥するだけだ。

「どう…とは?」

 会長の緩んだ表情に、流石の彼も眉間に皺が寄る。彼は既に会議に遅刻しているのである。しかも、話し合う前に自ら議題から脱線した。壇上では冷静な二枚目も、こうなると只の厄介なお喋りだ。

 要一の顔付きに、更に口元が緩んだ生徒会長――村迫慶司(ムラサコケイジ)は、彼を小突いた。

「最近一緒の彼女はどーしたんだよ。ほら、学祭の時も忙しいのに足繁く行ってたじゃないか」
「別に足繁くは…」
「まぁそこは照れるとこじゃねえよ!」

 小突きが平手打ちに変わり、要一は沈黙するしかない。

 数回容赦なく肩を叩いてから、まるで酔っ払いのように慶司は彼の肩に腕を回す。

「いやさ、最近は特に朝から一緒にいるような印象だったのに、今日に限って見てないなと思って…」
「別れたよ」
「ふーん、わか……」

 言いかけ、一瞬静止する。その後、彼は要一の予想通りの行動を取った。

「えぇぇぇ!?」

 瞳孔が開かんばかりの極端な反応を見せる会長に、要一は呆れた視線を送る。

「…驚きすぎじゃないか?」
「驚きもするだろ!お前みたいな真面目にバカが付くような奴がだよ?一年も経たない内にいきなり別れるなんざ…」
「真面目すぎるから別れたんじゃないのか?」

 突如聞こえた声に、二人が顔を上げると、生徒会一クールな書記、山内凉(ヤマウチリョウ)が切れ長の黒眼で彼等を眺めていた。

 更に彼は細身の眼鏡を気障っぽく押し上げ、さも当然のように滔々と語る。

「どうせ一線越えられなくて愛想尽かされたんだろう?真面目も考え物だな」
「橘もあんたには言われたくないと思うけど」

 低声に逆らって響いた声の主は、凉をその右脇から半眼で見遣っていた。

 生徒会会計の古矢崎栞(フルヤザキシオリ)だ。彼女は、現実主義者で理論派である。

「マジなんですか先輩?いやぁ惜しいな!」
 要一の左側で、頭の裏で手を組んで、先程から何やらにやけているのは、一年の会計補佐樋田聖陽(ヒダマサアキ)である。

 お気楽な樋田を全員が一斉に見遣った。彼は素知らぬ気に皆を見渡している。

「何が言いたいんだ?樋田」
「あれ〜?先輩知んなかったんすか?松永梨恵って…」
「私からお話します」

 態とらしい樋田を遮り、書記補佐で一年の宮小路美鶴(ミヤコウジミツル)が冷静に声を上げた。美鶴は梨恵とはクラスメイトで、中学も同じだ。しかし、要一はそれ以上のことは聞いていなかった。

 美鶴自身は、仕事の覚えも早い上、リーダーシップを取れる人材で、次期会長と目されている。



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