男は三十路から!
02
「ははっ、いい顔だね!あんあん言って欲しいなぁ」
「なっ!」
いきなりの変態発言に、俺は身の危険を感じて鳥肌が立つ。だと言うのに、目の前の変態の表情はうっとりと恍惚としている。
俺は気味が悪くなって、とっさにリビングに向かった。すやすや寝ている瀬名には悪いが、これは相当なピンチだ。
「せっ、瀬名!やばい、起きてくれ!!」
俺は必死に瀬名を揺り起こす。頼みの綱は、もう瀬名だけだった。
「………ああ"?なんだよ、うっせえな」
しばらくそうしていると、瀬名が布団から顔を出して俺をギロリと睨む。しかし、いちいちそんなのに怖気づいてはいられない。
「おーじさんっ」
「ひいっ!」
悪魔の声が聞こえて、振り返るとそこにはいつの間にか家に上がり込んだらしい鷹野の姿。
もうダメだ、と俺は思った。しかし、突然背後から温もりに包まれる。
「…コイツに手ェ出すな」
温もりの正体は瀬名で、布団被ったまま抱き締められたから相当温かい。いや、すっぽり瀬名の膝の上に乗れたことなんて俺は気にしない。
「おっはよー、瀬名。今お目覚め?」
「…ああ。てめえのせいで最悪の気分だ」
ふぁ、と瀬名があくびをする。その吐息が耳に掛かって、こそばゆい。思わず身をよじると、瀬名が俺の肩に顎を乗せる。
「あ"ー、ねみぃ。てかなんで俺がここにいるって分かったんだよ」
「GPSでばっちりだよ」
「…まじきしょいわ」
おいおい、俺を挟んで会話するのはやめてくれないか。と正直言いたかったが、鷹野の言葉はさっきからおかしい。
「…おまえら、どういう関係?」
「ストーカー」
「親友っ!」
瀬名がげんなりと答えるのに対し、鷹野はニコニコ笑っている。そしてまるでふたりの言い分は違う。
まぁ、ここは甥っ子の言い分を信じる。というか、鷹野はあの言動から信用ならないのだ。
ここはビシッと言ってやるのが筋ってもんだろう。
「…おい、鷹野。瀬名はお前のことストーカーって言ってるんだが、どうなんだ?」
「えー、ストーカーとか心外。でも瀬名の叔父さんがこれから相手してくれるって言うならいいよ!ってか俺も抱きついちゃえー」
「え、うわっ!」
そう言うといきなり鷹野が俺に飛び付いてきて、ぎゅうぎゅうと抱きつかれる。ただ、背中には背中がいるから俺は正にサンド状態。
「重い!痛い!」
「おい、鷹野!」
「えへへー、イケメン二人ゲットー!」
訳の分からないことを言っている鷹野はようやく瀬名の牽制によって離れる。やっぱりコイツ、頭イカれてるのか?と疑わずにはいられない。
「だってしょーがなくない?瀬名の叔父さん、すごく俺好みなんだもん」
「お前、そっちの人間か…」
「まーね、おじさんそういう人ハジメテ?」
鷹野はこてん、と首をかしげる。その動作だけ見てりゃあ、子供っぽくて可愛いのに。発言がアダルトすぎるんだよ。どうなってんだ、最近の若者は。
こういう性癖の奴に会うのは初めて、ではない。むしろ、何度か好意を持たれたことがあった。
よくは分からないが、俺は男にもモテるらしい。ただ、それは全部断ってきたし、みんな物分かりのいい奴らだったし、最近はそれも減っていた。
だからこそ、カルチャーショックというかなんというか。
「どーでもいいけどお前帰れ。ヒロ、飯」
そんなことを考えていると、瀬名は立ち上がりまたあくびをする。「えー、瀬名のいけずぅ」という鷹野に、瀬名は無言で回し蹴りを食らわせた。
そのあと、ちゃっかり鷹野が朝飯を食べて帰るまでずっと瀬名は溜め息ばかり吐いていたのは仕方ないことだった。
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