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ウィルオウィスプ/急
ヴァレンシア海岸。
かつての噂が立っていた場所はその影を潜め、静かに波を打つばかりで、コテージから出て来た私は一つ、息を吐いた。
今計画している夏合宿が終われば、時は早く過ぎ去り、皆と共に過ごした学生生活ともお別れになる。
悔いる事は無い。私達は目的にむかってただがむしゃらに走ってきたから。
ただそこにあるのは今までの思い出と郷愁だけで。

長い間水平線を見ていたのか、日が沈みかけていた。
バスに戻ろうとして、ふと足を止める。
湧き上がる黒い靄が一つの固まりになって人形の形をとった。
この世界とは違う異質の存在である事がすぐに判った。
「コールエア!」
手を掲げて風の精霊を呼び出して戦う構えをとろうとしたとき、敵意が逸れたのを感じた。
「……?」
黒い靄から形成された「それ」は岩の隙間に吸い込まれていった。
確か、その岩をどけると、時空が入り乱れた洞窟へと繋がる。
場所の性質が性質なだけに岩を置いて隠されていたのを思い出す。
岩を動かすと容易く岩は動き、ぽっかりとした洞穴が姿を表した。
地面にはまだらで虹色の水溜りのようなものが所々に作られ、
かつて、海賊のアジトだったのか海賊旗のようなものも掲げられていた。

追って洞窟を進むと行き止まりにたどり着いた。
開かれた宝箱の傍にぽっかりと開いた輝く水溜りのようなもの。
かつての噂に基づく事件を紐解くと、この穴から光のプレーンと言う世界に繋がっている。

「どうやら、ここに逃げ込んだみたいね。」

水溜まりのような物にひたり、と足を付け、一つ息を吐く。
あの黒い靄は渡された資料によると、亜空軍のものらしかった。
私達が守った世界に亜空軍を入り込ませるわけにはいかない。

その決意と共に、次の瞬間、一気に踏み込んだ。

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あきゅろす。
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