透、契約する! 3
親父の足抜けの支援をしてくれている一人に、桜塚丈という三十代半ばの男がいる。
ここいらで一番でかい組の若き幹部として名を馳せている丈は、のし上がるために無茶をして右目を失い、大概は黒い眼帯をしている。
しかし、隻眼と手入れされたあごひげが端正な顔立ちに野性味を添え、武闘派で180cmはある引き締まった肉体との取り合わせが絶妙で、どこぞの映画に出てきそうな海賊じみた風貌となっている。
ゆるくウェーブのかかった黒髪をかき上げると、どんな女でもひとたまりもなく落ちると言われている。
そんな丈だが浮いた噂もなく、若い頃に俺の親父に世話になったとかで、子供の頃はよく遊んでもらっていた。ある一時までは。
まー、その「一時」というのが問題で。
何を隠そう……俺の初キッスを奪った男だ。
「早く育たねぇかなぁ」
と言いながら、俺に唾をつけた。
忘れたいのに忘れられない恐怖体験だ……。おのれ。
中学の頃、母親が体調を崩して入院を強いられた時期があった。
その時は丈がしばしば見舞いに来た。
俺の母親と、死んだ静の母親には随分と世話になったらしく、本当に親身になってくれた。
思えば、組でのし上がるために無茶をしはじめたのも静の母親が亡くなった頃からで、性癖はどうであれ、俺や静の家族の幸せのために身体を張ってくれていることは知っていた。
俺は、見舞いにも来ない父親を恨んだ。
そんな俺を、丈は小突いた。
「欲しいものを誰かから与えられるまで待っているのか?」
丈は俺にひとつの提案をした。
卒業したらすぐにでも親父の会社を継げと。そして、継いだ暁には丈の養子になれと。
俺の家族を、完全に裏の社会から切り離すために、俺の親父の会社を乗っ取る。
俺は、その提案を呑んだ。
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