透、遭遇する! 1
俺は翌日、学校帰りに墨田道場へと寄った。
墨田道場というのは、母の友人が開いている合気道の道場で、いつでも好きな時に来るようにと言われている。
ここ最近のことで少しイラついていた俺は、型稽古を一通りこなして鬱憤を晴らしたのだった。
「透、今日は珍しく荒れてたじゃん」
そう言ったのは、稽古につき合ってくれた墨田馨だ。
馨はこの道場の娘で、1歳年上の幼なじみ。物心つく前から一緒に遊んでいた。それこそお互いの胸の内を包み隠さず話せる間柄だ。
スラリとした体躯に黒髪のポニーテール。キリッとした目元に泣きぼくろがチャームポイントだ。
女にしては長身で、俺より20cm近く背が高いのが気に入らないけれど、姐御肌な性格で老若男女問わず人気がある。
ま、正直に言えば、俺も憎からず思っている。
だけど、馨は俺より那由の方が好みらしい。ぬー。那由は確かに可愛いからな。
「何かあった? このカオルちゃんに何でも言ってごらんなさいな」
相手の気持ちにすぐ気が付くのも、こいつのいいところのひとつだと俺は思う。
「……自分に腹が立ってた。気持ちのコントロールができなくて」
「へぇ、珍しいじゃん。なになに、どうしたの?」
「あんまり言いたくないんだけどなぁ」
「えー、そんなこと言われると幼なじみとしては傷つくんですけど!」
馨がすねて頬を膨らます。
「わーったよ。ぶっちゃけ、端から見ると笑い話だけど笑うなよ?」
「ハイハイ」
俺はコトの経緯を、この幼なじみにもぶちまける羽目になった。
笑うなと言ったのに、初っぱなから馨は大爆笑だ。でも、思いっきり笑い飛ばされると、かえって気持ちは楽になった。
「さすが透。私より可憐だもんね」
「あほか。ナニが可憐だ」
馨は「身長とか?」と、頭をギュウギュウ押さえてきた。
「やめい。縮む、縮む」
身体をよじりながらも、馨の楽しそうな顔を見るとホッとした。
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