闇夜の国 8 ※ シイナは学校から帰る途中で電話ボックスに入り、自宅に電話をかけた。 「もしもし、母さん? 今日、ちょっとタカシくんの家に寄ってから帰るわ」 『タカシくん、どうかしたの?』 電話の向こうで、母親の心配そうな声が聞こえた。 「最近ずっと学校休んでるから、風邪でもひいたのかと思って。お見舞いしてくる」 『そう……』 母親はそう言って、少し黙った。 その沈黙が、何か悪いことでもしているような気にさせられて、シイナは電話ボックスの中をグルリと見回した。 ふと目にとまったカードがあった。白い名刺サイズの紙に、黒い文字で、 「死にたい方は今すぐここへ!」 と、書いてある。ドキリ、とした。 『――シイナ、タカシくんの家は今、ちょっと事情が複雑だから気をつかってあげなさいね』 電話の向こうで母親がそう言った。 「うん……」 シイナは半ば、うわの空で返事をして受話器を置いた。 もう一度まじまじとそのカードを覗き込む。 天国結社の電話番号を見て、 「あ、なーんだ」 と、シイナは呟いた。 天国結社の電話番号は117-1059で、イイナテンゴク、と読ませている。 117からはじまっていては、その後に何番をかけようとも、時報にしか繋がらないはずだ。 この質の悪い悪戯にシイナは苦笑したが、それでも胸騒ぎは収まらなかった。 何故、というわけではないが、このカードを見た瞬間、とても嫌な予感がしたのだ。 シイナは電話ボックスを出ると、タカシの家の方へと駆け出した。 [*prev][next#] [戻る] |