闇夜の国 3 僕は電話ボックスを出て、新宿の空を見た。夜空は白っぽく濁り、ネオンの光だけを照り返していた。 子供の頃、近所に住む同い年の女の子、シイナと見た星空は新宿とは違い、とても美しかった。 僕の母さんとシイナの母さんは高校時代の同級生で、何かにつけてシイナの両親は僕を遊びに連れて行ってくれた。 その夜も、シイナの家の車で小高い丘まで星を見に行ったんだ。 ――星って、どうしてキレイなのか知ってる? シイナは大はしゃぎで両手を夜空に伸ばし、無数に散らばる星を掴もうとしながら聞いた。 僕には分からなかった。 ――シイナはタカシくん好きだから、教えてあげる! シイナは少しお姉さんぶって、得意げに何か言っていた。 ただ、その言葉までは思い出せなかった。 僕は視線を落とした。 僕のことを、好きだ、と言ってくれた人の言葉まで忘れてしまっていた。 [*prev][next#] [戻る] |