『発展途上』早川失言編3
ごつっ!
「痛ってぇ!」
突然、後頭部に走った痛みに俺は思わず叫ぶ。
キッと振り返ると、プラチナブロンドのソフトモヒカン男が笑みを浮かべて突っ立っていた。そいつの耳にはピアスがズラリと並んでいる。
「ったく、ルネかよ。いきなり殴んじゃねーよ」
コイツの名前は義家ルネ。チーム《シエル》のボスだ。
フランス人とのハーフで、黙っていればハリウッド俳優並の美男子。しかし、性格は破滅的。どこでどう間違ったのか、俺の一番の友人だ。
俺が頭をさすりながらブツクサ文句を言うと、ルネは目を細める。
「リョー。今日フラフラだったらしいじゃねーか。どこぞの誰だかにやられて」
……これは、決して俺を心配しての言葉ではない。
ルネは強い男の噂を聞くと、すぐにそいつの元へ押しかけ、病院送りにするのが趣味だ。
「うっせぇ。痛くも痒くもねぇわ」
「のワリには、公園でハチコーのチンピラ教師に介抱されてたってゆーじゃん?」
うわ、完全に見られてた。有名人はツライわ。
「リョー、うちの看板背負って、恥さらしてんじゃねーヨ?」
ルネが鼻で笑う。俺はさすがにカチーンときた。
「女みてぇなヤツだと思って、ちと油断しただけだっつの。次はねーよ!」
「……お前、ハチコーに2回も顔出したらしいじゃん。ハチコーの生徒ってことはそいつ、《カブキ》のヤツなんだろ?」
「ばっ、トールはそんなタイプじゃ……!」
――あ。
「トール?」
や、やべぇ。ルネの顔がこぼれ落ちんばかりの笑顔だ。俺のバカ。
「ふーん、トールね。ハチコーのトール……」
俺らの会話を近くで聞いていた後輩の一人が、「そういえば」と切り出す。
「俺、中1まで空手やってたんスけど。俺とタメのヤツで、見た目は女みてぇな顔してるのに、やたらツエーのが一人いたッスよ。それが確か、何とかトオルって名前で」
「へえ?」
ちっ、余計なことを。後輩を睨みつけるが、ルネと話すのが嬉しいのか、全く俺の視線には気がつかない。
おそるおそるルネの顔をのぞき見る。……すぐに、「見なければ良かった」と俺は後悔する。
ルネは、獲物を見つけた獣のような顔をしていた。
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