・飛鳥葛藤編2 どうやら、誰にも邪魔されず、本格的に俺と太田の二人きりのようだ。 どどど、どうしろと……。 返事のない俺に首を傾げつつ、太田は泡立てを再開した。 「こんなものか?」 泡立て器をボウルのふちでカンカンと叩いて、生クリームを落とそうとした太田だったが、泡立て器についていた生クリームはボウルの中へとは落ちず、 「――ふにゃっ?!」 ビシャッと周囲に飛び散った。 ふにゃっ、とか言ってんじゃねぇよ。顔にクリームとかつけてんじゃねぇよ! 何だこれは。何の陰謀だ。俺を殺す気か。 あはは、ドジだなぁ。こんなとこに生クリームついてるぞ。ペロリ! ……なんて想像した俺の頭を壁に打ち付けた。 「飛鳥君?! おい、大丈夫か?!」 「おう……」 「あ。飛鳥君にまで生クリーム飛んでしまったか。すまない」 そう言って、太田は俺の頬に指を這わせ、すくい取った生クリームをペロリと舐めた。お、太田…… ――チーン! 「あ、焼けた!」 太田が、いそいそとオーブンを覗き込む。 あ、あっぶねぇぇぇ!! ちょっと意識飛びかけた……。無意識に伸びていた手をもう片方の手で叩いた。 太田が焼いていたのは、バナナ入りのパウンドケーキだ。 ホットケーキミックスを使って、初心者でも簡単に作れるレシピだった。 型から外して粗熱を取ったら完成だ。皿の上に乗せてケーキを太田に渡す。 「……飛鳥君」 「ん?」 「誕生日おめでとう」 太田はにっこり笑って、その皿を再び俺に渡した。 ……は? 「あれ、違ったか? 今日、誕生日だったよな?」 カレンダーを見る。……確かに、今日は俺の誕生日だった。 [*prev][next#] [戻る] |