同じ過ち 3
芹沢の薦めでリーズナブルなパスタランチを頼んだのだが、前菜もパスタも本格的で美味しかった。
「これ、マスターからサービスだってよ」
と、芹沢が食後のコーヒーと一緒に、小ぶりなティラミスを持ってきた。
オープンキッチンの方を見ると、短いあご髭を生やした彫りの深いマスターがバチッとウインクをよこした。キザだけど決まっている。
「この店、ティラミス結構有名らしいぜ」
「そんなに美味しいのか」
「いや、俺もまだ食べたコトねーけど」
そんなことを言うので一口分スプーンに乗せて芹沢の口元に運ぶと、芹沢はちょっと悩んだ末にパクリと食べた。
カシャッという電子音。
「まっ、またお前……!」
芹沢が慌てて口元を押さえながら小山内の携帯を奪おうとするので、さすがに「客、客!」と止めた。
キッチンに戻ってもマスターから何か言われているらしく、真っ赤に染まった顔を手で覆っていた。
「小山内君、あまり彼をからかうなよ……」
「何言ってるんだよ。僕の目的はソムリエエプロン姿を撮るだけだったけどさ。目の前でイチャイチャされたらそりゃ撮るでしょ!」
「イチャイチャはしてないだろう」
「男同士でア〜ンはしないよ普通」
「……ううむ。どうも彼は無性に餌付けしたくなるのだよ」
「あはは、愛犬家だね、太田君」
「愛犬……。確かに彼は犬っぽいし愛らしいが……」
俺がそう言うと、小山内は目をぱちくりさせた。
「……ははっ、かなり親バカな飼い主だよね」
「え、そ、そうか?」
「もー、早く付き合っちゃえよキミたち!」
小山内が机をパンパン叩いた。
「だからー、そういうのではないと言ってるだろう。ア〜ンくらい誰にでもできる。ほら、ア〜ン……」
小山内にもティラミスを食べさせようとしたが、
「芹沢君が超睨んでるからヤメテ」
と、笑顔で断られた。
キッチンの方を見やると、芹沢が思いっきり目を逸らせた。
「ほらほら、機嫌悪くなるから引っ込めて!」
中空をさまよったティラミスは、仕方なく自分で食べた。
ほろ苦くて、大人の味だった。
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