違う過去 15
考えてみれば、本屋で出会うまで芹沢の笑い顔など見たことはなかった。
教室では寝てるか、不機嫌そうな顔だった。
「……そうか。あの日、本屋でぶつからなかったら、キミとは友達になれなかったんだな」
「だろうな。だからな……これで良かったんだ」
「……」
「もし違う過去だったとしたら、もしかしたらもうちょっとマシな人間だったかもしんねぇけど……少なくともお前とは会えてなかっただろ」
「……そうだな」
「お前も言ってたじゃねぇか。お前が俺の代わりに怒ってくれたから。もういいんだ」
そう言って、芹沢は俺の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
「まー、とりあえず稼がんとな」
「コンビニ以外はバイト何するんだ」
「昼間はレストランのウェイター。夜は運送会社の仕分け作業だな。朝は新聞配達でもしようかと思ったんだけど、午前2時集合で、コンビニの方と兼ね合わなくてよ。さすがに寝ないと死ぬかもだし」
「……俺もバイトしてみるかなぁ」
「お? 仕分けにでも来るか? 結構キツイから、いつでも空きがあるらしいぞ」
「わざわざキツイのを勧めるのかキミは」
「レストランはシフト制だから、休みが合わないとつまんねーじゃん。仕分けの方は一緒に作業できっし」
「ふむ……」
「一緒ンとこなら、あのヘアバン野郎が来ても守ってやれっから。そうしろよ。な?」
……ああ、色々とショックな話が続いたせいで飛鳥のことを忘れていた。
「非力でも平気なものかね」
「俺がフォローするって」
「……そうか。では、帰ったら親に相談してみるか」
俺がそう言うと、芹沢が嬉しそうに笑ってギューッと肩を抱いた。
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