違う過去 6
俺は、お目当ての新刊が出る日以外は多少の小銭しか持ち歩かないようにしている。
従って、俺の財布に入っていたのは残り220円。奪われても、大した被害ではなかった。
「チッ……しけすぎだろ」
そう言うなり飛鳥は俺の顔を張り倒し、眼鏡が飛んだ。
俺の目に生理的な涙が滲んだのを見つけた飛鳥は暗い笑みを浮かべると、俺のYシャツを掴んでボタンを一気に引きちぎった。
それを見た飛鳥の仲間たちは「白〜い」だの「細〜い」だの、「さすがオカマちゃん」だの言いながらゲラゲラ笑った。
飛鳥は高校生になっても何も変わらないようだ。
俺のため息に気がついた飛鳥は、俺の頭を掴んで洗面台に押しつけ、頭に水をザブザブとかけた。水が気管に入ってむせる。
手を離されたので洗面台から離れ、びしょ濡れの髪をかき上げ顔をぬぐう。
「けほっ、けほっ……はぁ……」
俺はこいつらには敵わない。だから、もちろん恐怖はある。対人関係は苦手だから、大勢の人に囲まれているというだけで身体が強ばる。
しかし、俺はどうしても飛鳥に憐憫の情を抱いてしまうのだ。
それが飛鳥を苛立たせることも重々気付いてはいたのだが……。
「お前のその目が気にいらねぇんだよ!!」
飛鳥は俺の顔を鷲づかみにすると、壁に頭を打ち付けた。――痛い。
「昔からそうだ。人を見下したような目で見やがって! ムカツクんだよ!」
……そういえば、きっかけは些細なことだった。
小学校4年生くらいのある日、飛鳥が突然俺を自宅に誘った。誰からか俺がゲームの達人だという噂を聞いたらしい。
飛鳥も腕に覚えがあったようで、俺に勝って友達に自慢するつもりだったようだ。
しかし、俺は飛鳥に勝った。完膚無きまでに。
そのうち飛鳥が泣き出したので、ほどほどに手を抜いてやると、「馬鹿にするな!」と家から追い出された。
急に、芹沢と初めて一緒に遊んだ日を思い出した。
「笑ってんじゃねぇよ! キメェ!」
再び壁に頭を打ち付けられた。
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