違う印象 19
1階の仏間に布団を敷くつもりだったが、姉貴のエンドレスセクハラ発言に芹沢が耐えきれなくなったようで、俺の腕を掴んで2階の自室へと駆け上がった。
「うう……お前の姉貴にこんなコト言いたかねぇけど……心が折れる」
「男として正しい反応だ。俺にとっては日常だから慣れているが、悪かったな」
芹沢が気の毒そうに俺の頭を撫でた。
結局、芹沢が「ここでいい」と言い張ったので、ベッドの上に敷いていた敷布団を床に降ろし、じゃんけんで芹沢がベッドのマットの上で寝ることになった。予備のシーツをマットに敷き、タオルケットと毛布は芹沢が、掛け布団は俺が使うことにした。
「そういや……。こんなことを聞いていいのかわからないが、早川が言ってた《カブキ》って何だ? 伝統芸能の歌舞伎ではないんだろう?」
「早川って誰だ」
ベッドに腰掛けた芹沢は首を捻った。
「……さっきお前が最後にバトルしようとしてたヤツだ」
「あー。《シエル》の赤いヤツか」
本当に芹沢は絶望的に人の名前を覚えられないようである。
「ウチの学校で代々引き継がれてる伝統的不良チームが《カブキ》っつーらしいな」
「はー、そんな漫画みたいなことが本当にあるのか」
「興味ねぇから俺もよくは知らねぇけど。《シエル》っつーのは、去年まで中学で暴れてたヤツらが中心のチームだな。今年、主要メンツが西野の学校に入ったはずだ」
「え、そうなのか。ってことは、あの早川も1年?」
「そうなんじゃねぇの?」
「キミより背がデカかったぞ、あの男」
「背のでかさイコール強さ、じゃねぇよ」
「そうかもしれんが」
「大体、お前がナイフ持ったヤツに頭突きかましてひるませた方が大番狂わせだろ」
「あの時は、一瞬でも隙を作ればキミが何とかしてくれると信じていたからな」
「っ! おう!!」
「改めて礼を言っておく。助けてくれて、ありがとう」
俺が深々と頭を下げると、芹沢が息を呑んだ。
しばらく拳を握りしめてジッとしていたが、「やべっ」と呟いて壁の方を向いて天井を仰いだ。
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