違う呼び名 10
遠慮してたわりに、芹沢はよく食った。
今日のメニューはニンニクたっぷりのスタミナ唐揚げだ。
山盛りだった唐揚げがみるみる減っていくのを、母はうっとりした表情で眺めていたが、姉貴はニマニマ笑いながら言った。
「そんなにスタミナつけちゃうの? 今夜のお相手するのが大変ね、タカちゃん」
芹沢が唐揚げをつまんだままガキンッと硬直した。
「姉貴よ、食事時のセクハラ発言はよしてくれ」
「えっ、芹沢君、もしかして今夜うちに泊まるの? キャッ、ど、どうしましょう。お布団を干してないわ!」
「干さなくていいから。母よ、落ち着け」
「そうよ。タカちゃんのベッドで一緒に寝るんだから、大丈夫よね」
「まぁ。シングルベッドなのに狭くないのかしら……」
「寝ないから。つか、泊まらないから。頼むから姉貴は喋らないでくれたまえ」
芹沢は未だに唐揚げをつまんだままダラダラと冷や汗を流していた。
「あら、芹沢君……もしかしてお口に合わなかった?」
母が心配そうに芹沢の顔を見る。これだけモリモリ食っておいてマズイわけがないと思うのだが。芹沢も焦ったように首を横に振る。
「俺の弁当も散々食われたからな、母は自信を持っていいと思われる」
「あっ、あれはお前がア〜ンってやるから……」
……しまった。余計な燃料を投下してしまった。姉貴はうつむき加減で、「イエスッ! イエスッ!」と呟きながらガッツポーズを決めていた。
「まあっ、それなら明日から芹沢君にもお弁当を作りましょうか」
母がホワホワと微笑みながら言うが、芹沢は「い、いいッスから」と慌てる。
「大きいお弁当にたくさん詰めて、二人で屋上にでも行って、イチャイチャしながらア〜ンすればいいのよ」
「あらぁ、それはピクニックみたいで楽しそうねぇ」
姉貴と母のかみ合わない話の内容に、芹沢がみるみる老け込んでいく。
芹沢……こんな会話に巻き込んでしまい、本当にすまないと思っている。
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