違う呼び名 7
まずは手始めに日本史と化学のプリントに取りかかった。
プリントは中学校のおさらいみたいな内容で、空白を埋めるだけの簡単なものだったので、教科書を見せて書き写させた。
「優等生だな。こんな分厚い教科書、いちいち持って帰ってきてんのか」
「まーな。例え教科書だろうと、本を捨てられたり破られたりされるのはちょっと我慢がならんからな」
俺の言葉に芹沢のペンが止まる。
「さらりとディープなカミングアウトしやがったか」
「気のせいだろう。気にするな」
「……おう」
次に現国のプリントに取りかかる。
「『坊ちゃん』か。チョイスが秀逸だな」
「どこの坊ちゃんだよ」
現国教師の気遣いも、馬鹿の前にはどうにもならぬものらしい。
「夏目漱石だ。昔の千円札の人だ。『吾輩は猫である』とかが有名だ」
「あー」
プリントを手にした途端、芹沢の表情が険しくなった。
「おい……。これ古文だぞ」
「ま、ちょっとばかり古いがな」
芹沢は固まったままだ。どうやらまるで頭に入ってこないらしい。
「仕方あるまい。俺がざっくりかみ砕いて説明してやろう」
「……おう。頼むわ」
「正座して聞くがいい」
「するかアホ」
「むう」
芹沢に軽く蹴られながらも、俺は頭の中で要点をまとめた。
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