同じ道、同じ言葉 40 「酔ってなどいるものか。俺は皆慈の幸せを一番に思っている。だから、もし何よりも大切なものが出来たとしたら、俺や俺の家族に遠慮することなく羽ばたいていくがいい」 俺の言葉に、皆慈の瞳が揺れた。 「たとえ何があろうと俺は皆慈の力になるし、どんなに離れようともずっと……」 不意に手のひらで口を塞がれる。 ひゅう、と喉が鳴った。 「……頼むから、たとえ話でも、離れるとか言わないでくれ」 皆慈の手が震えているのがわかった。 「清がいなくなったら俺はどうしたらいいんだよ。だから、頼むから……」 今にも消えそうな、だけど心の底からの皆慈の言葉に、俺はただ頷くしかなかった。 ふと我に返った皆慈は少し後悔を含む目をしていた。 「……ワリィ、冗談だ。あのな、もしお前に好きなヤツとかできたら……」 深い吐息。 「お前には暖かい家が似合ってる。だから、その時は何にも気にしねぇで、さっさと結婚でも何でもしろよ」 そう言って、そろりと離れていく手を俺はハッシと掴んで引き止めた。 「“坊ちゃん”の話……覚えているか」 「……大体」 「清は最後にこう言うのだ」 ――坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋めて下さい。 お墓のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っております。 「死がふたりを分かつまで? それは西洋人の考えだな。聖夜にこんなこと言うのも野暮であるが、俺は命尽きようとも天国なんぞに行かず、ド根性でキミにつきまとってやる。言っておくが俺はしつこいぞ。そう簡単に分かたれてやるものか。だから――」 俺は皆慈の鼻先をピンッと指で弾いた。 「キミも意地でも隣にいろ。誓うならば、そう誓うがいい」 皆慈の顔がぐしゃっと歪んだ。 「美男子がブサイクになったな」 「…………うっせぇよ」 ギュウ、と俺を強く抱き締めた皆慈が、ほんの少し涙声で答えた。 [*prev][next#] [戻る] |