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同じ道、同じ言葉 36
 そろそろ宴会もお開きの時間が近づき、姉貴と母が手洗いへと行った。

「太田君、大丈夫か?」

「もう酒は抜けました。ご迷惑おかけしました」

「本当だ。いつもの太田君だね。……ぷふっ、ちょっと可愛かったけど」

「わ、忘れてください……。着替えてきます」

 俺は、はぁ、とため息をつきながら、服の入った鞄を持って手洗いに向かう。

 すると、廊下でうずくまって呻く姉貴に母が必死で声を掛けていた。

「……姉貴? どうしたのだ」

「あっ、タカちゃん。美晴君とパパ呼んできて! う、産まれちゃうかも」

 母の言葉に、一瞬真っ白になった。

「え、ええええ?! 早くないか?!」

 大慌てで部屋に戻る。

「車、下まで持ってくるから! 美晴君、娘を頼む」

「わかりました。お願いします!」

 我が家のオンボロ車が、これほど頼もしいと思ったことはない。

 姉貴の行きつけの病院に電話すると、すぐに受け入れてもらえることになった。

「清も行くなら、バイクで追いかけるけど」

「頼む」

「太田君、会計はこっちで済ませておくよ。気をつけてな」

「すみません。後で改めてご連絡入れます」

 上着を羽織ろうとして、まだ着替えていなかったことを思い出した。とほほ。



「……え、その格好で来たのか?」

 病院に着くと、父が唖然とした。言うな。俺も想像以上に大ダメージ喰らっている。

 この寒空の下、ミニスカートにタイツでバイクは寒すぎる。そして、羞恥心でMPが尽きた。

「これから着替えて化粧落とすよ……」

 化粧落としシートを姉貴の鞄から取り出そうとすると、分娩室から姉貴の壮絶な悲鳴が漏れ聞こえた。

 いつもニマニマ笑っている姉貴のこんな声など聞いたことがなくて、思わず鞄を取り落とす。隣にいた皆慈の顔も青ざめていた。

「大丈夫だ。女は強い。ほら、着替えて来い」

 父の言葉に、こくりと頷いた。

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あきゅろす。
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