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違うアイツ 11
「テメェ……」

 振り返ると木刀を手にした所長が問答無用と殴りかかってきた。

 咄嗟に飛び下がるが、木刀がかすめて額が割れ、血が吹き出した。

「ぐっ……」

 ほぼ避けたからダメージはそれほどない。

 ただ、血が目に入って視界がぼやけた。

「甘やかしていれば、ふざけた真似しやがって。クソガキが!」

 鳩尾への強烈な蹴りを腹筋に力を入れて何とか凌ぐと、所長の顔が苛立ちに染まった。

 再び木刀が振りかざされたところで、母親が男にしがみついて止めた。

「やめて、あなた! そんなので叩いたら死んじゃう!」

「っるせぇ、あばずれが!」

 男は母親を平手で打った。

 俺はその隙に木刀を掴み、ハッとこちらに視線を戻した男の顔面に全力で拳を捻り込んで木刀を奪った。

 ……だけど、その程度では男は倒れなかった。

 母親は「強い男が好き」らしいしな。

 俺は自嘲しながら木刀を窓から放り投げた。

 他の所員たちが一気に殺気立ち、次々と飛びかかってきた。

 一人沈めたが、それが限界だった。

 ただの不良とは違う。そう簡単に倒れたりはしない。

 とうとう床の上に押さえこまれた俺の頭を、所長が踏みつけた。

「生まれてきたことを後悔させたれ。飽きたら適当に埋めろ」

「ウス」

 所員たちが刃物を取り出した。

 母親が息を飲んだのがわかった。


 ……俺はここで死ぬのかもしれねぇ。

 だけど、間違いに気がつきながら自分をごまかして生きるより、なんぼかはマシな人生だっただろ?

 俺は微かに笑いながらそっと目を閉じた。



 ――その時。


 事務所の入り口から、どこか間の抜けた声が聞こえてきたんだ。

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あきゅろす。
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