違うアイツ 10 俺はすぐにでもその町を離れるつもりだった。 しかし、母親が何をどう話したのかはわからないけれど、夜が明ける前に母親の旦那である所長がやってきて、俺を奥の会議室に閉じ込めた。 「まあ、出て行くにしろ最後にひと仕事していけや。バイト代は弾むしよ」 そう言われて、俺は渋々資料を受け取った。 そのバイトとは、資料に書かれた番号に片っ端から電話をかけて、「番号が変わった」と伝えるだけ。昼になり集まってきた数人の所員と共に作業を進めた。 俺は馬鹿だから、しばらく気がつかなかった。 それが「詐欺」の手口だという事実に。 新しい電話番号を登録させてから、後日改めて事故なり事件なりに巻き込まれたと伝えるのだ。 ……本当に馬鹿は救われない。 『カイジ? あんた、カイジか?』 電話口の婆さんに名前を呼ばれた。 ……いや、ただの偶然。 婆さんの息子だか孫だかが、たまたま俺と同じ名前だっただけだ。 『今、何しとん。みんな心配してはるよ。はよ帰っておいで』 そう言って、婆さんは泣いた。 俺は今、何をしてる。 皆慈って――正義の味方みたいな名前だって――アイツは言ってた。 それなのに。俺は……。 「……アンタ、馬鹿か。俺がアンタの知ってるカイジの訳ねーだろ」 周りにいた所員がギョッとした。知るもんか。 「わかんねーかな。この電話は詐欺の手口だっつーの、馬鹿な婆さん。さっさと警察にでも駆け込むんだな!」 俺は一気にそう言い捨て、事務所から渡された携帯を放り投げた。 すげースッキリした。 [*prev][next#] [戻る] |