違うアイツ 1 耳障りなブレーキ。 鈍い衝突音。 鳴り響くサイレン。 ……ベッドに横たわった包帯だらけのアイツ。 『手術は成功しましたが、最悪の場合も念頭に……』 医師の言葉に崩れ落ちる足下。 俺は暗闇に堕ちていった。 どこまでも……。 「…………」 悪夢から目を覚ました俺は、のろのろと身体を起こした。 あの日、俺は何もかもから逃げ出すように、バイクを走らせた。 何も考えられなかった。 夢とか希望とか、色々あったはずなのに…… 一瞬でバラバラに砕けた。 頭の中に声がよぎる。 ――暴力で守れるものもあるが、失うものも多い。 確か……唐草って先公。 ジジイのくせに、アホみたいにぶっとい腕をしてた。 ――守ったはずのものまで失う羽目になる。 唐草はそう言った。 ……それは、本当の話だった。 俺のせいだ。 俺がアイツをあんな目に遭わせた。 あれからアイツは無事に目を覚ましたのだろうか……。 医者の言う「最悪の場合」が頭によぎり、身体が震えた。 涙は出ない。 アイツは無事だ、と言い聞かせて。 [*prev][next#] [戻る] |