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通りすがり以上 6
「ん? どしたの」

 私が少し後ずさったのに気がついたおじさんは少し不思議そうな顔をしたけれど、私は「何でもない」と首を横に振った。

「おじさんも……奥さんと娘さんに酷い事して愛想つかされたの?」

「…………」


 ずっと笑っていたおじさんは、私の言葉を聞くと、フッと真顔になった。


「まー、良い夫ではなかったネ。この駄目なオッサンは、娘が生まれた時も帰らなかったし、家に居ない日の方がずっとずっと多かった」

 おじさんは、キィ、とブランコをこいだ。

「……奥さんの事が嫌いだったの?」

「ンなこたないヨ。だけど、あの頃のオッサンは仕事の方が好きだったんだろうな」

 おじさんはどこか遠い目をして言った。

「ある日、家に帰ったら机の上に離婚届が置いてあってネ、添えてあった手紙の日付は二週間も前に書かれてた。愛想尽かされて当然だ」

 そう言っておじさんのちょっと笑ったけれど、全然楽しそうではなかった。


「仕事をしてくれるだけ、マシじゃん」

「うはッ。まぁなぁ」

「暴力とか振るったりは?」

「うーん、そんな柄じゃないネ」

「……娘さんの下着脱がして……胸触ったりする?」

「おいおいっ、オッサンそんな変態じゃ……」


 おじさんは言葉の途中で口を閉じて、ブランコを止めた。

 私の言葉の意味に気がついたのだろう。


「……ごめんネ。オッサン、無神経だったみたいだ」


 その言葉に促されるように、ぽろりと涙がこぼれた。

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