通りすがり以上 4 時計を見る。 あと10分でタイムセールは終わる。 家に取りに帰っても間に合わないし、玉子も手に入らないだろう。 私はもしかして、と鞄の中を何度も何度も漁ったけれど、事実は変わらなかった。 私はため息をついて、並んでいる列から抜けようとした。 その時。 「お嬢ちゃん。これ、貸してあげる」 という声と共に、五千円が目の前に差し出された。 振り向くと、ボサボサ頭のおじさんが五千円を片手に立っていた。 もう片方の手には、ビールと唐揚げのパックを持っている。 「……そんな事をしてもらう縁はありません」 そう言うと、そのおじさんは、 「まあまあ、貸すだけだよ。オッサン、貧乏だからネ」 と言った。 私はそのおじさんをじっと観察した。 大人の男性の年齢はよく解らないけれど、お世辞にも若いとは言えない。 背は高いけれど、猫背で威厳はない。 背広とシャツはヨレヨレ、ネクタイは安物。 ビールと唐揚げを買っているから、身の回りや健康に気を遣ってくれる奥さんはいないと見た。 少し白髪まじりのぼさぼさ頭に無精ヒゲ。 どうも徹夜明けという感じだ。 あ、アクビした……。垂れ目なので余計に眠たそうに見える。 そして、私は自分の持つ籠の中を見た。 玉子の他、戦利品の数々……。 私はこくりと頷いて、 「この後、すぐお返ししますから」 五千円を受け取った。 [*前へ][戻る][次へ#] |