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「ううんそうね……じゃあ、そうしようっかな。あたしも綾ちゃんやお母さんから、最近の笑美の様子、色々訊いておきたいし」
邦瀬の忠告に従い、大人しくサラダを頬ばる。
『ゴールデンウィークも終盤だ! お前等ちゃんとハジケてっかぁ?』
ダミ声のDJが陽気にがなり立てていた。土間の上に張られた床が小型ラジオの音を拾い、モノラルをステレオに変える。まるで下手くそが歌うカラオケエコーだ。音量を気にせずに済む処が田舎の醍醐味だろう。
夜の狂気が嘘のように窓から一陣の風が吹く。
庭に臨む一本桜が、涼やかに葉を揺らせて此方を見ていた。
土塀を背にどっしりと佇む古木は、一ヶ月前の満開の薄紅が夢だったとでも言わんばかり、今や滴るほどの眩しい緑だ。
年に一度、四月の第一日曜に、さくら、笑美、大輔、邦瀬の四人は、この樹のもとにつどった。
樹の下には、ポリ袋で密閉された、15cm四方のスチールボックスが眠る。
中には古びた野球グローブがひとつ。今は亡き耕太の遺品だ。
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