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02.故郷へ
ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
五月晴れの陽光に照らされた新緑が、水面が、キラキラと流れては去って行く。さくらは思わず目を細めた。新幹線のドアにもたれて。
足元のスーツケースには二、三日分の着替え、そして喪服が入っている。
ゴールデンウィークで混みあった車内。外に目を遣り続けていると、射し込む日差しで頬が火照った。かといって、溢れかえった人、人、人を見ていたくはない。
まあいいわ。どうせもうじき着く。さくらは心の中で独りごちた。
東京からほんの数時間で着く、静岡の小さな田舎町。中学から高校まで過ごした故郷がそこにある。
故郷と呼べる場所は他にはない。他には知らない。たとえ肉親がもう、そこにいなくとも。
さくらは東京生まれだった。父は仕事人間の商社マンで、あまり家に寄り付かず、病気がちの母は十四の時、他界した。
以来、一人っ子で体の弱かったさくらは、母方の祖母の家に預けられたのだ。
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