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しかも、見えない影を警戒しながら、ぐるりと廻って、その影の本体を突き止めなければならないのだ、自分達だけの力で。
「とにかく片っ端からやるしかないだろ? お前等も気を付けるんだ。相手が判らない以上、後手に回るしかないからな。連絡マメに取り合おう。一日二度の電話は絶対だ」
そう言った大輔の顔は緊張に硬く引き締まっていた。もはや悲嘆に暮れる寡夫などではなく、命懸けで敵と対峙する兵士のそれだ。
ハッとする。六年前のあの時と同じ顔……と、さくらは思った。
過去が追い掛けて来ている。何もかも、終わってなぞいなかったのだ。
夜半、玄関先まで出て大輔を送った。
いつの間に登ったのか、おぼろ月が竹林の黒い影から顔を覗かせている。
中古の白いランドクルーザーが庭先でターンすると、砂利がガガガッと音を立てた。
大輔が二人に向かって軽く手を上げる。
走り去る一瞬、助手席に置かれた金属バットが玄関の灯を反射し、不気味な光を投げて寄越した。
さくらは戻ると、まっすぐにキッチンへと脚を運び、コンロに火を点けた。二通の不吉な贈り物がたちまち燃え上がる。
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