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彼が華やかな世界にスカウトされてからというもの、周囲に煩わしい事も増えつつある昨今だが、さくらは別れる気などさらさらない。
邦瀬という蜜に群がる女達の情熱は、全く、と言って良いほど持ち合わせてはなかったけれど。
もう外の誰かと心を通わせる事など有り得なかったし、かと言って、独りで生きていけるとも思えなかった。
さくらの世界は内に向かって閉じている。
多分、五枚の花びらを、彼等と互いの腕に刻み合ったあの日から。そして、耕太の仇を討つと決めた、もうひとつのあの日以来。
今ではそこにもうひとつ、笑美の仇討ちという目的が加わったわけだ。
逆立つ心を撫でるように、浴室から水音が響いてくる。既視感を覚えるような日常……だがもう、この世界の何処にも、笑美は存在しないのだ。
「笑美がいない」
声にすると、言葉はたちまち息が詰るほどの重みを持ち、胸を潰した。すぐに喉がひゅーひゅーと主張を始める。さくらは枕元の吸入器に手を伸ばしながら空を睨んだ。
誰であろうと、このままでは済まさない……決して。
「これだ」
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