[通常モード] [URL送信]
page09



☆パスワード☆

 またしても言いよどむ彼女。プライベートな依頼をする客は大抵こんな具合だ。他人の手を必要とするからには、まず、勇気を持って打ち明けなきゃあね。


 暫くモジモジとした後、彼女はぽつりと言った。


 「実はあのう、どうやら彼、ワタシの研究データを持ち出したみたいなんです」


 「はあっ、何ですって」

 遠山とアタシは驚いて顔を見合わせた。あんたそりゃ、こっそり探偵に打ち明けるような種類の話じゃないよ。110番通報でしょ普通。産業スパイは犯罪よ。


 アレックスも元旦那の香川氏も、共に大手製鉄会社(S社)に席を置く研究員だ。研究成果が学会に発表されるとはいえ、現在開発中の製品データなど、企業の株価を左右しかねない重要機密ではないのか。


 「彼がこの家を出てってから、鍵は全部取り替えたのですけど」


 「侵入者が彼だと断言出来る根拠がお有りなんですか」

 と、遠山。


 「パスワードです、ワタシのパソコンの。勿論彼にも教えてはおりませんが。彼にしか解き得ないパスワードなんです。二人で昔考えた、子供の名前なの」

 両手で顔を覆う彼女。


 子供が産まれたら何と名付けよう。女性なら誰しも一度は思い描く、甘い夢だ。




+back+ +next+

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!