その他の文章
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「もう学校は終わったみたいだな。」
鳴海の台詞に、外を見ると書生がわらわらと下校しているのが見える。忍ももう帰ってくるな。
そんなことを思っていると事務所の扉を開き、黒い学生服を身にまとった忍が姿を現した。
「ただいまー。」
「おー、おかえりライドウちゃん。」
忍の姿に悪魔達がわらわらと嬉しそうに忍の下へ寄って行く。
「ライドウちゃんおかえりー。」
「おかえりなさーい!」
「ライ様、おかえりなさいまし。」
「ライドウ帰ったホー。」
熱烈な歓迎に忍は少し困ったような顔をしつつも、自分が帰って来たことを喜ぶ悪魔達にまんざらでもない様子だ。
だが、悪魔の管理だってしっかりしている、いつもの熱烈な歓迎に何かが足りていないことにもすぐ気づく。
「・・・あれ、なんかひとり足りなくないか?」
「あー、あの足が一本の変なヤツでしょ。ガーデニングに目覚めたみたいだよ。」
イッポンダタラという名前の通り、あいつは元々足が一本しかない。変というのは・・・あいつの人格、とでも言っておこう。
「はぁ・・・ガーデニング。まぁ、人に迷惑かけてないなら、何しててもいいんですが。」
抱きついてきたジャックフロストの頭を撫でながら、忍はそんなことを言っている。
そんなところが甘いと俺は常々思うのだが・・・まぁ、一般人には悪魔の姿は見えないし、いいか。
・・・いかん、俺にも忍の甘さがうつってきた気がする。
「うぉ、うぉまええええっ!!!」
「あ、帰って来た。」
ふいにバンッと事務所の扉が開くと、先ほど話題に上がっていたイッポンダタラが、一本しかない足でぴょんぴょんと跳ねながら忍の元へ寄ってくる。
ちなみに、これは『お前』と言っているらしい。
この喋り方も勿論だが、言っている内容も変なことが多かったりする。本人は真面目らしいが。
「これっ、うぉまえにやるうううっ!!!」
こいつの左手はいつも創作活動や武器として使用している金槌があるのだが、今は金槌の代わりに失礼ながらこいつにはとても似つかわない物があった。
だが、下手すると人間よりも悪魔との交流が多い忍は、特に疑問を抱くこともなく差し出された物を素直に受け取る。
「・・・リンドウ。」
釣鐘のかたちをした淡い青みがかった紫色をした秋に咲く花だ。
「うぉれが育てたんだあああ!!! うぉれの花は世界一いいいっ!!!」
世界一かどうかはわからないが、思わず見とれてしまうくらいに綺麗に育っている。
専門知識がないので詳しいことわからないが、一生懸命手入れをして育てたのだろうということは俺でもわかる。
「頑張って育てたんだな。ありがとう。」
リンドウを手に自分に向かって笑みを見せる忍に、イッポンダタラは意味のわからん奇声(この際喜声とも言える)をあげながら、事務所を跳ね回っている。
「鳴海さん、花瓶とかありますか?」
「あるよ。確かこっちにしまってたハズ。飾るんだ?」
跳ね回る一匹の悪魔を横に、忍と鳴海の人間同士で会話を始める。
「せっかくくれた物ですしね。飾っても大丈夫ですか?」
「勿論。事務所も少しくらい飾りっ気がないとねー。」
これ程見事に咲いたリンドウだ。飾らねば勿体無いぐらいだ、というのは鳴海もわかっているのだろう。
鳴海は戸棚から少しほこり被った、お世辞にも高そうとは言えない花瓶を引っ張り出して忍に手渡す。
「じゃあ、ちょっと行ってきますね。」
上機嫌にイッポンダタラから受け取ったリンドウと、鳴海から渡された花瓶を手に部屋を出る忍。
それを嬉しそうに跳ねながら見送るイッポンダタラ・・・そして、それを恨めしそうに見つめる他の悪魔達。
・・・明日からの悪魔達の行動が怖いと思うのは俺だけか。
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