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「キョンくん、キョンくん。起きてください。」
 
非常に聞き覚えのある声が『起きろ』と言いながら俺の身体をを揺さぶり続ける。
 
不愉快だ。俺は気持ちよく寝ているというのに・・・・。
 
あぁ、でもさっきから首が痛い・・・・何故だ、しかもなんか俺、座っているのか・・・・?
 
「キョンくんっ! バスの運転手さんもガイドさんも困ってますよ。」
 
「・・・・・う、えっ・・・?」
 
思いっきり身体を揺さぶられて、俺はたまらず目を開ける。
 
すると、最早目と鼻の先という距離に古泉の顔。
 
後ろの方には何やら苦笑いの制服を着た中年のおっさんと、20代半ばといった感じのお姉さん。
 
「寝てるところゴメンね。でも、もうバス出ちゃうから。」
 
くすくすと口元を押さえながら、どこぞの制服を着たお姉さんがそう言った。
 
あぁ・・・バスガイドさんか。そーいや、俺、修学旅行の最中だったんだ。
 
「・・・すいません、俺・・・・爆睡してて・・・・・・。」
 
ゆっくりと身体を起こしながら、まだ覚醒しきらない頭でぼんやりと謝罪をすると、運転手のおっさんがにっと笑って
 
「いいよいいよ。それよりも、早くホテルに入らないと先生に怒られるんじゃないか?」
 
「キョンくんの荷物なら、もう降ろしてありますから。行きましょう。」
 
古泉は2人に頭を下げると半ば強引に俺の腕を引く。
 
寝起きのせいであまり力も入らない俺はそれに流されるまま、とりあえず軽く頭だけ下げてバスを降りた。
 
駐車場には誰一人いやしない・・・俺はそんなにも爆睡していたのか・・・・・と、いうか薄情な連中だ。
 
なんで同じクラスの奴が起こさないで、乗っているバスさえ違う古泉がわざわざ起こしに来るんだもんな。
 
「悪かった・・・・・・。」
 
俺の無愛想な謝罪に古泉は『え?』といった感じのきょとんとした顔を俺に向ける。
 
「・・・・その、わざわざ起こしに来てくれたんだろ。クラスも違うのに。」
 
「あぁ、いいんですよ。それより、キョンくんの荷物がロビーに置きっぱなしなので・・・・。」
 
だから、急げと。了解した。
 
っつっても、財布も携帯電話もポケットに入ってるから、そんなに大した物は荷物にはないんだが。
 
俺の着替えなんか盗ってもどーしようもないしな。まぁ、嫌がらせくらいか。
 
いや、携帯の充電器・・・あれはいる。ないと困る。
 
「キョンくんの荷物ってこれで合ってますか?」
 
古泉の視線の先には新品に近い黒のキャリーケースと持ち手の一部がほつれかけた青のボストンバック。
 
さて、問題。俺の荷物はどっちでしょう。
 
「大丈夫だ、合ってる。悪いな。」
 
二人分の荷物は重かっただろう、俺がそう続けるまでもなく気の利きまくったセリフが返ってきた。
 
「僕のはキャスターがついてますから。重くもなんともありませんよ。」
 
そう言って古泉はガラガラと新品のようなキャリーケースを引っ張って行った。
 
はい、正解は後者でした。
 
・・・なんてバカなことをしている場合じゃない。
 
既に先生も他の連中も姿もなく、ホテルの従業員しか見えなくなったロビーにいつまでもいてる場合じゃないんだ。
 
さっさと部屋に行かねばならない。

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