九龍受な文章
2
「楓、大丈夫かっ!」
乱暴に扉を開け、部屋の中へ視線をやると、イスに縛り付けられたあいつの姿が目に入った。
拘束はされているものの、遠目から見る限り怪我らしい怪我はしていないようだ、よかった・・・。
「銛矢ー。まってたよー。」
とても手足を鎖で拘束されている奴がするとは思えない無邪気な笑顔に僕は心底ほっとする。
「早く鎖を外せ!」
僕の命令に尋問をしていたであろう男が、慌てて両手足の鎖から楓を開放する。
戒めがなくなり、自由になった楓はすぐさま僕に飛びついてくる。
「無事でよかった・・・。」
「だいじょうぶー。でも、ちょっとこわかった。」
ぎゅうっと僕の服を掴むのを感じると、僕は隣にいる男を全力で睨みつけた。
こいつはこいつで自分の仕事をしただけなのだろうが、今の僕にはそんな理屈は通じない。
仮にも侵入者を愛おしく抱きしめる僕に、尋問していた男がおずおずと僕に質問する。
「あの、この方は一体・・・。」
明らかに僕の関係者なので『この方』と表現する、賢明な判断だ。
でも、こいつは僕の一体なんだろう・・・僕がここまで執着する、冷静さを欠くくらいに大切に思っている。
上手い表現が見つからない、こいつは僕の・・・。
「恋人だ。」
僕の答えは相手にとっては意外な返答だったらしく、えらく驚いた反応をされた。
「そうなの?」
「君が言うなよ・・・。」
きょとんとした顔で聞き返すこいつに、自然と僕の口からため息が漏れるが別に悪い気はしない。
むしろこいつらしくて安心する。
それはいいとして・・・この侵入者の件は上に伝わっているのだろうか。
もし、伝わっていたら面倒だな・・・僕の関係者が騒ぎを起こしたことになるからな・・・。
「この侵入者の件は上に報告しているのか?」
「いえ、喪部様のことをずっと言っておられましたので・・・まずは喪部様に報告させて頂きました。」
敬礼をしながらの返答に僕は内心ほっとする。
「わかった。後は僕がするから、持ち場に戻ってくれ。ご苦労だった。」
僕がそう言うと男は敬礼と一礼をして、尋問室から出て行った。
廊下から聞こえる遠のいていく靴音を確認して、僕はこいつにどうやってここまで来たのかと尋ねる。
「とちゅうまでは、ねーさんときた。あとは私ひとり。」
その途中がどのへんまでかで、ここに来る難易度は凄く変わる気がするのだが、聞いても期待する答えは返ってこないだろう。
だが、テーブルに並べられているカバンの中身の少なさから思うに、かなり近いところまで送ってもらったんだろうな。
まぁ、それはいいとして・・・。
「僕は君のこと『迎えに行く』って言っただろ? なんで勝手な行動をするんだ。」
ロゼッタから引き抜いてやろうと思ってたことだの、探すのに物凄く労力を使ったことだのを説明すると、未だ僕に抱きついたままこいつはしゅんと頭を下げる。
わかっているつもりではいるんだ、こいつも自分なりに僕のことを探してここまで来たと言うことは。
でも、僕が仕事の合間に必死で情報集めてた苦労を思うとね・・・。
「いたいー! 銛矢がいじわるするー!」
文句を言われるのをよそに軽く頬をつねることで許してやることにしよう。
今までの苦労よりも遥かにもう離れることもない嬉しさの方が勝っているからね。
我ながら自分らしくないことを考えたが、自然と漏れる笑みは抑えられようがないみたいだ。
おわり
コメント
ついにやっちゃったね、未来捏造。
仕事終わったハイサヨナラーはどうも納得出来ない人間なので、つい・・・ね。
しかし、うちの喪部は甘いね、本当に。
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