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どりーむな文章
イミテーション清楚



まだ登校する奴もまばらな朝練終わりのこの時間、冬の澄んだ空気が心地よく運動後の身体を冷やしていく。

この時間帯なら教室に誰もいないだろう。まぁ、気が楽でいい……と思ったのも束の間。

「おはよう。あと、誕生日おめでとう。」

目の前にいたのは、左右をみつあみにして結った、いかにも『おさげ』という響きが似合う髪型に黒ぶち眼鏡をかけた……。

今だけは非常に認めたくないが、俺が現在進行形で付き合っている彼女だった。

「一応聞くが、なんだよその格好は。」

「…………清楚じゃない?」

表情を変えずにがその場でくるりと回ってみせるので、俺は仕方なく全身を見てみる。

黒髪おさげに黒セルフレームの眼鏡、校内でも少数派の膝下まであるスカート、白ハイソックス、シャツのボタンはきっちりと第一ボタンまで……入学直後の1年生でもこんなギチギチな格好しないぞ。

普段は真逆……という程ではないが、ここまで校則に則っていない。もう少し緩い程度だ。

これを清楚かどうかと聞かれれば、『わからない』と答えざるを得ない。そもそも、俺に聞くなと言いたい。

「知るか。」

「……清楚じゃないのかぁ。」

わあ、とっても清楚だね。とでも言ってやればよかったのか。

悪いがそんな無理矢理なフォローするのは鳳くらいしか思いつかない。

残念そうに呟くを無視して、俺は何故こいつがこんな行動に至ったのかと考える。

「……お前、頭でも打ったのか?」

俺の台詞には心外だと言わんばかりに一瞬目を開く。

この対応を見る限り、頭を打ったうえでの奇行でないことは判明した。

が、素面でこの行動か……と思うと、俺の方が頭が痛い。

「違うよ。日吉の好みが清楚な子って聞いたから、誕生日くらいは清楚でいようかと思って。」

「嬉しくない。」

確かに俺の好みのタイプは清楚な女だが……誕生日に、言い方はあれだが、コスプレ染みたことをされても嬉しくない。

というか、そもそも清楚な雰囲気ってものは付け焼刃で出来るものじゃないだろう。

「そっか。」

少し残念そうと言うより、悲しそうに眉をひそめて視線を下に落とす。

はたから見たら俺が責め立てているようで、なんだか罪悪感を煽る光景だ。

誰か来ると厄介だ、まだ誰も来ないで欲しい。

俺は特に返す言葉もなく、だんまりとカバンの中身を机の中へ移していくと、視界の外からの困ったように唸る声がした。

「うーん……困ったな。日吉の欲しい物がわからないから、この格好をすることにしたのに。」

……意味のわからない行動に移されてしまった俺の方が困っているとわかって欲しい。

最早返す言葉を探す気もならず、冷やかに視線を送るだけにしておくと、ようやく俺の意図が通じたのか、は自分の席へと戻っていく。

「もっと『お嬢様』って感じの格好だったらよかったのかなー……。お蝶夫○とか。」

あいつの恐ろしい独り言が聞こえる……奴の中では『清楚=金髪縦髪ロールで高校生なのに夫人と呼ばれるテニスプレーヤー』なのか……?

氷帝という学校に中学受験して通っている時点で、世間的にはお嬢様だとは思わないのだろうか。

いや、それよりもお蝶○人で登校されなくて心底よかったと思う……。

ホッとため息をついていると、はカバンから何かのチケットのような物を取り出して俺の元へ再びやってきた。

「一応、映画のチケット買ったんだ。」

近くのコンビニで購入したんだろう、はコンビニのマークが印字された封筒を少し微笑んで差し出す。

「それだけで充分だったんだが。」

プレゼントにしては味気ない封筒を開けてみると、どうやら最近公開されたばかりの邦画ホラーだった。

俺が七不思議系の本ばかり読んでいるから勘違いしたみたいだな……俺は香港映画が好きと言ったはずだったんだが、まぁいい。

多少外したとは言え、この行為は素直に受け取ろうと思う。悔しいから礼は言わないけども。

「ところで、俺の好みのタイプなんてどこで聞きつけた。」

「ファンクラブの人に聞いたんだ。」

俺は貰ったチケットを財布にしまいながらそう尋ねると、はしれっと答えた。

レギュラーになってから、俺のファンクラブだとか意味のわからない存在があるとかないとか聞き及んでいたが、まさか本当にあったとは。

それよりも、俺の彼女とファンクラブだなんて対極の関係じゃないのか……これが跡部さんだったら吊るしあげどころじゃないぞ。

「……どうやってだよ。」

再び痛み出した頭を抱えてもう一度質問を飛ばす。

すると、はポケットからスマートフォンを取り出して指を滑らせる……嫌な予感しかしない。

「日吉の着替えてる写真データと引き換えに。」

「……お前っ……!」

ずいっと見せつけられる画面には着替え中の俺の姿がでかでかと映っていた。(ちなみに制服から私服に着替えているところだ)

どこで撮った、どうやって撮った、いつ撮った……ダメだ、ツッコミどころが多すぎて、処理が追いつかない。

最後に家に呼んだのはいつだ……中間テスト前に勉強するからって呼んだくらいか。

いや、しかし仮にも客の前で着替えるなんて、俺が無作法な真似をしたか……。

自然と眉間にシワが寄るのが自分でもわかるくらい考え込んでいると、怒っていると勘違いしたのかが少し困ったような顔でフォローを入れる。

「大丈夫だよ、見えて乳首までだし。」

そう言う自称清楚がスマートフォンの画面に人差し指と親指をくっつけて離す動作、つまり画像をズームさせてから、再び画面を俺に見せてくる。

「やめろ、清楚(自称)が乳首付近アップにすんな!」

……今の無駄に進化した技術は如何なものかと思う。

何故仮にも彼女に自分の乳首付近のアップ写真を見せられないといけないんだ。

「……本当だ。私、今は清楚なのに乳首とか言っちゃダメだ。」

「安心しろ、全然清楚じゃない。……もう写真くらいでガタガタ言うのがバカバカしくなってきやがった。」

俺も跡部さんくらいに大物になれば……そう考えると、この程度で騒いでいては器が知れる。そう言い聞かせて気を落ち着かせる。

「とにかく、俺は映画が観られるだけで充分だ。」

これ以上、余計なことをされたらたまったものじゃない。

と、言いたいが俺は言葉を飲み込む。今回の行為に本人は悪意どころか、祝う気持ちしかないようなので。

「映画行くの、楽しみにしてるよ。」

その証拠に今の笑顔はまぁ清楚に見えなくもない。

「……まぁ、期待しておいてやるよ。」

ようやくこいつの目的達成……と言ったところか、まぁ素直に言うと調子に乗りそうなので、本人には絶対伝えないが。

「今度は頑張ってお蝶夫○を目指すから。」

「やめろ、絶対にするな。」




HappyBirthday!



コメント
PCサイトの方で誕生日企画に参加させて頂きました。
一応、以前書いた日吉夢と同じヒロイン…でいいかな。
祝えてるような祝えてないような。

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あきゅろす。
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