どりーむな文章
どう考えても渇望
※ヒロインのキャラ濃いです注意
俺はハッキリ言って毒草が好きや。一番は勿論テニスやで、これは言わずもがなやろ。
まぁ、それでこの『毒草が好き』っちゅーことは、どうも一般的にはよろしく思われていないようで……ぶっちゃけ不評(特に女子に)や。
別にええやん、人の好きなものなんて、他人が干渉することちゃうわ。
そんなことでいちいち他人に構ってたら時間の無駄や。無駄は切り捨てなあかん!
でも、そーゆー無駄なことをしてくる奴がすぐ近くにおるわけで……。
「白石の趣味キッモイわー。ホンマ、残念やな自分。」
俺が昼休みに植物図鑑(見ているのは勿論毒草の欄)を読んでいると、毎回毎回突っかかってくる。
どっかりと隣の席に座って腕組み、脚組み、偉そうな態度。
氷帝の跡部クンでもそんな態度デカないわ。女王様か。
別にほっといてもええんやけど、こいつはずーっと突っかかってくる。しつこいわー。
部活のことでどーたらこーたら聞きにきた財前も、クラスメイトの謙也も『またか』って顔をしとる。
俺は軽くため息をついて、パタン、と図鑑を閉じ、しゃーなしに相手したる。相手せんと怒るからな。
「何言うてんの、梢の方がずっとガッカリな趣味してるわ。」
頬杖をついて半ば呆れたように言い返してやると、梢がムッと眉をひそませた。
そう、この女王様も俺のこと言えんくらいに、一般人からすると『残念な趣味』をしている。
「毒草やろ? そんなんやから、綺麗な顔してんのに女が出来ひんねん。」
「俺は健康的なことも好きやで。そっちは拷問器具やろ? せやから、残念な美人って言われてんねや。」
スズランみたいな白い肌、クロユリ色したさらっと長いストレート、長い睫毛に大きな瞳、スラリと伸びた手足、スクリーンから飛び出してきたかのような見た目はまさに完璧。
そんな美人から気まぐれに微笑みかけられ、見事なまでハマッてしまう男子も結構おる。かなりおる。
や、け、ど、も、喋ると口は悪い、態度はデカイ、おまけにさっき言うた拷問器具が好きという、見た目の良さと相まって残念極まりない人間になっている。
「失礼な、拷問器具だけちゃうわ、処刑器具も大好きやで。」
ふふっ、と楽しげに含んだ笑みをたたえて言い返す梢に、俺は『更に残念やった』と思わざるを得ない。
大きな瞳をキラキラと輝かせて誘うような上目遣い、そこから血色のいいピンクの唇から発せられる『大好き』という言葉……これは、ずるいわ。
「どっちも一緒や。ギロチンだの駿河問いだの三角木馬だの、グロくて見てられへんわ。」
毎日言い合いしてたせいか、自然と入って来てしまった無駄知識。
ホンマ無駄やわー……何が悲しくて、道具を見るだけでも『うわあ……』ってなるようなモノの名前を覚えなあかんねん。ため息出るわ。
「そっちかて、トリカブトとかジギタリスとかシキミとか知っててどーすんの。なんかに使うん? おー、こわ。」
無駄知識が入ってるのは向こうも同じなのか、聞き覚えのある単語をわざとらしく肩をすくめて、せせら笑いながら並べてくる。
「なんで、お互いボロカス言うてるくせに、ちゃんと相手側の知識あるんすか。しかも、さっき地味に褒め合ってたし。」
ふいに俺らの様子を半ば呆れ気味に眺めていた財前が聞えよがしに言う。
そのセリフに謙也も追撃を開始してきた。でも、謙也の場合、爆弾を落としてくるかr
「そらぁ白石も綾辻もお互い好きやからっちゅー話や。」
「そんなん知ってますわ。」
「な、何言うてるんや、謙也!」
落として来よった……焦りの色が隠せず、ロクなツッコミも出来ひん俺を小生意気な後輩がニヤニヤとこっちを見てくるが、今はそれよりも目の前の女王様や。
「……。」
ひとこと言えば、2、3倍の口撃を返してくるあの梢が黙って椅子から立ちあがる。
「な、なぁ、梢……?」
俺は反射的に半笑いで梢に同意を求めてみる。
っていうか、何が『なぁ』やねん。なんの同意やねん、自分ホンマ焦り過ぎちゃう?
「し、知らんわ! 白石のアホ! もうお前の庭にめっちゃトリカブト生えたらええねん!」
そう半泣きみたいな声で叫んで逃げる梢の顔は耳まで真っ赤で……。
不覚にもそんな姿に初めて可愛いと思ってしまった。こんな可愛い反応も出来るんや。
今まで、綺麗やとか無駄がなくて整ってる顔してるとは思ってたけど……なんや、これh
「あーあ、白石先輩が泣ーかした。」
「泣ーかした。まぁでも、白石が女子泣かすのはよくある話やろ。」
「いやいや、今までのは向こうが告白してフラれて勝手に泣いたんすわ。身の程知らずの自業自得っすわ。でも、さっきのは泣かした確実に泣かした。」
「白石が泣かしよったー。」
……何回も泣かした泣かした言うなや。そんで、何気に財前は毒吐きまくりやし。
それよりも、二人の泣かしたコールのせいで、クラス中の視線が俺に集まってくる。
俺が泣かしたからには、ほっとくわけにはいかん。
「……お前ら、覚えとれよ。」
教室を出る前に使い古されたであろう捨てゼリフを吐いて、未だに囃し立てる二人を睨みつける。
「おう、頑張れよー!」
が、謙也はへらへらひらひら手を振って激励するだけで、特に効果は見受けられんかった。
あいつ、ホンマに覚えとれよ……授業中に当てられても絶対助けたらへん。
そう思いながら、廊下を走って行く……探すべき場所はもう既に検討はついている。
昼休みが終わるチャイムが鳴り響いても、踵は返されへん。
想像出来ないあいつの泣いてる姿を想像したら、そんなこと出来るわけがない。
★
去年の今頃、放課後に返し忘れた本を返しに行ったのが全ての始まり。
一瞬ホコリっぽいだけの図書室の空気がまるでキラキラと輝いてるように見えたんや。
冷静に考えると夕日がホコリに反射しただけやったんやろうけど、そこにいた艶やかな黒髪と透けるような肌は絶対に幻じゃない。
――どしたん、変な顔して。イケメン台無しやで。
初対面の俺にも意地悪そうな顔で笑いかける可憐という言葉が具現化したような女の子。
もし、それが幻やとしたら、俺は1年近く頭か目かがヤられとることになる。
「……梢、やっぱりここか。」
図書室の奥の奥……読む人が少ないレアというかマニアックというか、あんまり大っぴらに読まれへん本が仕舞ってある場所。
そこに本棚を背に脚を投げ出している姿は、それだけで雑誌か写真集だかのワンシーンを切り取ったみたいや。
手に持っている『世界拷問の歴史』という本さえ除けば。それさえ除けば完璧やった。
「何よ、ついに庭にトリカブト生えたん? お裾分けはいらんで。」
梢が目だけこっちを向け、いつも全然違うトーンで憎まれ口を叩く。
「たった数分で生えてたまるか、アホ。ほら、教室戻るで。」
「……嫌や。」
俺は屈んで左手を差し伸べるが、梢は芳しい反応を見せない。
それどころか座ることすら放棄して、生き倒れた人みたいに床に寝そべってしまった。
こんな状態でも本を手放そうとしないのは最早『流石』の一言に尽きる。
「ワガママ言うなや、もう授業始まってねんで。」
「……じゃあ、ひとりで帰れや。ほっといてや。」
昼間の攻撃的と言うか憎たらしい態度はどこに飛んで行ってもうたんか……なんや枯れた花みたいにしおらしい。
まぁ、憎たらしいこと言うてるのには変わりないんやけども、目を潤ませ遠くを見たまま言われてもな、悪い感情が起こるわけがない。
別の意味で悪い感情なら起こって来てるけど……。
「ちょおっ、何すんのよ!」
乱れたスカートの下に手を這わせ太ももの感触を楽しんでみると、梢はひっくり返った声をあげて撫でていた腕を掴む。
「なんや、元気やん。さっきまで死にそうな状態やったのに。」
「……凹んでただけや。忍足のボケ、カス、ヘタレの分際で……あんなところでバラしよって……恥ずかしくて生きてかれへんわ。」
梢が今度は焼いたエビみたいに身体をぎゅっと丸くさせて両手で顔を覆う。
しかし、えらい言われようや。俺はそんなに残念な人間なんか。あ、謙也に関しては否定せえへんで。俺、結構根深い男やから★
「何言うてんねん、梢が俺のこと好きなんはみんな知っとるわ。」
「…………嘘やろ?」
指の隙間から目を覗かせて驚く梢にこっちが逆にビックリやわ。
あんなんどう贔屓目に見ても好きな子に突っかかる男子小学生の態度やったん……。
「嘘なんかつくかい。自分、絡み方がバレバレやねん。相手せんかったら、めっちゃ怒るし。俺に構って欲しかったんやろ?」
「っ……ざ、残念な男にこっちから絡んでやってたんや、感謝せえよ!」
少しは余裕が出て来たんか、可愛げのない目つきで俺を睨みつつ、照れ隠しにげしげしと蹴りを入れてくる。
別に痛くも痒くもないが、蹴られっぱなしっちゅーもんは、雰囲気的にも俺の気持ちとしても、とてもよろしいものではない。
俺は蹴ってくる脚を掴んで、梢の顔をじっと見つめる。そして……。
「俺も好きやで……聞いたやろ、さっき。」
謙也に先に言われてしもたのは非常に不本意やけどな。しゃーない、言わんかった俺も悪い。
「……え、ええの? 口の悪い残念な美人やで?」
「美人は謙遜せえへんのか。俺も顔綺麗なくせに残念なんやろ? じゃあ、釣り合うやん。」
他にも足癖悪いとか態度デカイとかあるやんって言おうと思ったけど、流石にやめとこう。今の女王様はまだ凹みモードやから。
うつむき加減に珍しい女王様の自虐はまだまだ続く。
「でも、処刑とか拷問とかめっちゃ好きやねんで? 気持ち悪いやんか。」
「自分がそれ好きなんやろ? ええやん、それで。」
俺はそう思ってる、好きなものは好きでええやん。他の奴には好きに言わせておけばいい。
けど、自虐モードの女王様……いや、女の子には通じんらしい。
「せやけど……毎回『気持ち悪い』って言われるんやもん。向こうから近付いてきたくせに……なんなん。『気にせえへん』って言ったくせに……嘘つき、嘘つき……。」
どんどんセリフが恨みがましく聞き取りづらくなっていく。
なんや、好き好き、と言うてた割には実は気にしてたんか。
まぁ、『あの趣味さえなければ……』とか言われてんのは、ちょいちょい俺の耳にも入ってきてるしなぁ。
クラスが一緒であるだけの俺ですらこうなら、本人にはもっと入ってるやろう。
「……それのせいか知らんが、男が長続きしてるところは見たことないわな。」
「うるさいわ。こんな気持ち悪い女と合う男なんか稀やねん。」
いっぺん他の男と一緒に歩いてるところを見かけたことはある。3年生になったばっかりの頃やったか。
……けど、1週間後には二人は会話すらなくなった。端的に言うと別れたんや。
理由は相手側が『趣味が悪いというのは聞き及んでいたけど、予想以上やった』とのこと。
俺はその頃から梢のことをそーゆー目で見ていたから、そのニュースに内心喜んでいたのやけどね。
そこらへんからクラスメイトということを利用して、『実は俺もちょっと変わった趣味してんねやんか、変わった趣味持ち同士仲良くせえへん?』作戦を実行することにした。
いや、実際俺が好きなんは毒草だけとちゃうんやけどな……大好きやで、テニスは勿論。チェスとか健康グッズ集めるんとか。
しかし、『処刑・拷問好き』というインパクトに勝るには、『毒草』をガン押しするしかなかった。どっちも禍々しい感じでお似合いやろ。
その成果あってか、梢はいつしか今日の昼間みたいに絡んでくるようになってきた。
俺はそれを『はいはい』って適当に流す、向こうはムキになって余計になって絡んでくる。
我ながら上手い流れを作れたと思うわ。
まぁでも、普段から梢のことガン見してたから、他にはちょいちょいバレてたみたいやけど。
「俺は、稀な男に入るんかな。」
お互い好き同士やし、これで俺が女王様の言う『気持ち悪い女と合う稀な男』やったとしたら……俺達相性ぴったしで完璧やん。
「……そら、毒手〜とか言うて腕に包帯巻いてる痛々しい美形なんか、稀な存在やろ。」
修復早いわ。さっきまで死にそうなまでに凹んでいたのも束の間、もう毒吐けるくらい浮上してる。
「悪かったな、痛々しくて。」
好き勝手言ってくれる梢に俺も少しムッとした顔をしてしまう。
そんな俺に梢は気をよくしたのか(ホンマ性格悪い)、いつもの小憎らしい笑みを見せ……。
「そーゆー残念で痛々しい美形とお似合いなんは、同じく残念で気持ち悪い美人やと思わへん?」
意地悪そうに目を細めて笑う梢の姿に、1年近く胸の奥で燻っていた俺の劣情が消えるように融けていく。
「素直に好きって言いや。」
「いーや。」
言葉の代わりに重ねた手がぎゅっと握られる、俺はそれだけで幸せの絶頂にいるようやった。
おわり
コメント
無理にプロフを生かそうとした結果が残念なことになった。
ヒロインのキャラが濃いので、使いまわしはしたいなぁとかは思ってます。
口が悪くて残念な美人は個人的に好きなので。
あ、関西弁は自分が関西人だので、そんなに問題ない…はず。
タイトルはサイレンからのパクリだよ★
ちなみに、出てくる花の名前は全部毒草です、ネットマジ便利。
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