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どりーむな文章
でぃあ まい ぷりんす


※ヒロインの自分語りが多いです


あの人は昔いじめられていた妹を助けたときに、『まるで王子様みたいだった』と言われてからずっと王子様をしている。

すらっとした長い手足、綺麗に整った中性的な顔に、爽やかなミディアムショート、見た目だけでも王子様と言っても申し分ない人。

それなのに、天は二物三物と王子様に与えた。スポーツ万能、力仕事は率先してやる、男女問わず気さくに話し、友人からの信頼も厚い……でも、手先が不器用なのがマイナスかな。それが余計に王子様を加速させた。

みんなもうあだ名のような感覚でその人を『王子様』と呼んでいた。王子様もそう呼ばれることを嫌がっていなかった。

むしろ、自分から『王子様』という立場に築き上げたようにも見えた。目立つ存在だったから、みんな普通に受け入れていた。

今思えば、そうやって目立つことで妹がいじめられるのを防ごうとしていたのだろう。みんなが慕う王子様の妹に危害を加えるなんて許されないように。

私は王子様に『妹の友人』として可愛がられていた。他の人と比べて距離が近い、というのは私を舞い上がらせる。

朝、すれ違った時の王子様からの『おはよう』、お昼の『一緒に食べない?』、放課後になると『部活終わり、一緒に帰ろう』……日に日に私は舞い上がって行く。舞い上がりすぎて翼が融けてなくなってしまいそうなくらい。

でも、舞い上がってばかりはいられない。私も王子様の為に出来ることで尽くしていった。

苦手な裁縫の課題が出たときは、ほとんど付きっきりで手伝った。出来上がったときの笑顔は忘れられないくらい素敵な思い出。

いつしか、王子様も私を好いてくれているんじゃないかと、そう思うようになった。

勿論、私は本気で『王子様』と思っている程、好き。それが愛情でも友情でもどちらでも構わない。好きなものは好き。それでいい。

王子様が私に抱いている感情が友情か愛情かだなんて興味がなかった。どちらでも嬉しかった。好意を持ってくれている、という事実だけでいい。

いや、むしろ友情か愛情か……だなんて考えたくなかった。私と王子様は仲良し。それでいいんだ。欲張ってはいけない、欲張ってはいけない。

――――だって愛しの王子様は女の子なのだから。

そんな王子様も高校に進学することになる、私はまだ中学生だから離れ離れになってしまう。

それどころか、私は春から大阪へ転校することに。物理的な距離が私と王子様を大きく引き裂く。

「ちゃんと連絡するよ。」

「はい、高校の話とか聞かせてくださいね。」

私はそう涙を堪えて見送ってくれる王子様と友人に笑顔を作る。王子様も寂しそうだけど笑ってくれた。

そして、王子様が最後に私の肩を叩いて言った台詞。

「――向こうで彼氏出来たら教えてよ。」

やっと自分と王子様の関係を理解した。わかっていたけど、理解したくなかった。彼女は私に愛情なんて抱いてなかった。私は逆に友情を抱いていなかった。

友情でも十二分に嬉しいじゃない。こんなにも仲良しになれたんだから……そう言い聞かしても、膨れに膨れ上がった欲望は胸の内をがりがりと掻き毟る。

そして、大阪へ向かう新幹線の出発を知らせるコール音が鳴り響く中、車内から見えるホームで手を振る彼女の姿も、私の目には王子様にしか見えなかった。

私の一方的な王子様への愛情という名の呪縛はまだまだ解けそうにない。

あれから一年経っても……私は王子様以外見えないし、見られない、受け付けない。







「なんやこれ、お前が作ったんか?」

上から胡散臭いものに出会ったような低い声が降ってきて、明らかに男の筋張った手が机の上に並ぶ、手のひらサイズの服の中からワンピースを取り上げる。

私の何が気に食わないのか知らないけど、よくこうやって私に因縁をつけてくる。緑のバンダナをしたクラスメイトの……一氏くんだ。

「うん、イトコのリ/カちゃん人形に着せてあげようと思って。変かな?」

私はいつも作業の手を止めずに、視線も動かさずに質問に答える。これが失礼な態度だと重々承知してる。

でも、見られないんだ、男の人の顔が……。最近、なんとかしようとはしているんだけど……目が見られない。

「変やな。特にこれとか。」

丁寧とはとても言えない扱いでワンピースを机に放った手が、次に触れたのは私の自信作。あの人が着たら、似合うだろうなって思って作った、私の……。

どこの時代か、どこの国か、そんなこと一切考えずに私が作りあげた理想の王子様。

「なんでリ/カちゃんが王子様やねん。」

一氏くんが呆れているというか、うんざりした口調でずいっと私に手のひらサイズの衣装を突きつける。

これもさっきのワンピースのように扱われてはかなわない……私は慌てて突きつけられた衣装を取り返す。

「別にいいじゃない……女の子が王子様でも。」

脳裏によぎるのは、これを着て凛々しく微笑んだ……女の子。

他人が見れば、この状況に違和感しか覚えないってわかってる。そんな事実を彼は容赦なく突きつけてくる。

「はあ? 王子様は男がなるもんやろ。」

……わかってるわかってるわかってる。そんなことわかってるよ!!!

「ひ、一氏くんには関係ないでしょっ!」

触れたくない部分を踏みつけられたような感覚に苛まれ、私は思わず声を荒げてしまう。

はっと我に返った時にはもう遅く、目に入った一氏くんの口元が悔しそうに歪むのがわかった。

「あらぁ〜……それやと、アタシはユウくんのお姫様にはなられへんわぁ〜。」

気まずい空気を一気に散らしたのは、一氏くんの相方というか、愛方の小春ちゃん。

ラブと公言している相手の言葉は素晴らしいものであって、先程悔しそうに口元を歪めていた人物とは思えないくらいのテンションの切り替わりを見せてくれた。

「こっ小春うっ! そんなことあらへん、そんなことあらへんっ! 小春は俺の王子様、そして俺は小春の王子様やー!」

「ユウくぅ〜ん! 嬉しいけどなんの解決にもなってへんで〜!」

そうやってこの学校ではいつもの光景であるやりとりが始まってしまう……はあ、よそでやって欲しいな。

みんながワイワイと盛り上がっている中、行き場のない感情をどうしたものかと、場を盛り上げている中心に視線をやってみると……。

小春ちゃんの口がふっと『ごめんな』と動いた気がした。

顔を見ればどんな思いを込めて言ったのか、ある程度は察することが出来たのかもしれない。

でも、私は目を見てなかったので、彼がどんな表情をしてくれていたのかわからない。

そもそも、顔も酷く曖昧にしかわからない。彼も、その横にいる一氏くんの顔も。







放課後、誰もいない教室で私は昼間と打って変わってとってもご機嫌。

何故かってそれは愛しの王子様と電話をしているから。ああ、携帯って便利。3G回線ありがとう、定額通話ありがとう。勿論、定額指定は王子様の番号のみ!

……なんて心のテンションが急上昇するくらいに私はご機嫌。

しかもしかも、今回は珍しく向こうからの電話。これはもう舞い上がらざるを得ない。まぁ、放課後暇だったから電話しただけらしいけど、いいの。嬉しいから。

「……そうなんですか、高校でも男子に勝っちゃうなんて。王子様に磨きがかかってますね。」

遠く離れた電話回線の向こう側の武勇伝に聞き入る私。この間あった球技大会では男子のチームを押さえて、優勝したそうな。

高校に行っても『王子様』が通っているのだろうか、スピーカーからは照れ笑いが聞こえる。

そこへガラリと教室の引き戸が開けられる……ぱっと目に映ったのは黄色と緑のユニフォームに、緑のバンダナ。うわあ、よりによって……。

「……あっ、ごめん。」

「ええ。忘れもん取りに来ただけや。」

迷惑にならぬよう、席から離れて教室の隅に移動しようとすると、視界の端から視界の端へと向かう特徴的なユニフォームが私の台詞に被せるよう言った。

昼間は絡んできたくせに、今は電話してるせいか対応がえらく淡白だ……なんにせよ端的に済ませてくれて助かった。だって、電話の向こうでは『あ、大丈夫? 切ろうか?』って言われてるから。

「ごめんなさい。人が来てて……はい、大丈夫です。それで?」

話を促す私の言葉に、王子様は何か凄いことを成しえてきた男の子みたいに、少し自慢げに……。

――聞いて! 彼氏が出来たんだよ!

「そんっ、そうなんですか! うわあ、おめでとうございます!」

そんな……と反射的に漏れそうになるのを飲み込んで、私は精一杯明るく祝福の言葉を送る。

他にはなんて言えばいい? 羨ましいです? 私も彼氏欲しいな? 相手の人はどんな人なんですか? 心にもない台詞をどう言えば、喜んでもらえるかな。

――には最初に報告したくてね。やっぱり一番の仲良しだからね!

「一番なんて……嬉しいです。」

嬉しいのは本当。だって、私が一番の仲良しって言ってくれたんだから。

でも……ちょっと声が震えてロクな言葉が返せなかった。ダメだなあ、王子様がこんなにも嬉しそうにしているのに。

すると、電話の向こう側にいる王子様……一番の仲良しは、聞いたこともないような可愛らしい声で。

――あ、彼氏来た! ごめんね、切るわ。も彼氏出来たら教えてよ、じゃあね!

「はい、それじゃあ……。」

一番の仲良しは早口で、最後に顔を合わせたときに聞いた台詞を吐いて、私が返事をするのも待たずに電話を切ってしまった。

ディスプレイに映る通話時間と相手の名前が読めないくらいに滲んでいく。

ぽろぽろと涙を流すだけで済むのは、視界の外に誰かがいるって理性が働いているからだろう。

「お、おい……やめろや、俺が泣かしたみたいになるやんけ。」

視界の外にいる誰かがうろたえながら悪態をつく。それでいい、下手に慰められても申し訳ないだけだから。

わかってたのに……わかってたのに……。去年のあの日から、いつかこうなるって、わかってたのに。

予想していた出来事が起こっただけだ、と机に突っ伏して頭の中で何回も復唱する。泣くようなことじゃないんだ。

「……『王子様』てあれか?」

いつの間にか近くなった声がぶっきらぼうに尋ねる。なんでそのことを知ってるんだ。そもそも『あれ』って何よ。

「……声聞いて思ったけど、女やん。」

聞きたくない言葉だ。あの人が女だなんて十二分にわかっている。

それもちょっと声を聞いた程度の、しかも電話越しの声を聞いた程度の奴なんかに言われたくない。

それなのに、それなのに……!

「王子様は男がなるもんやろ。」

昼間、私を激昂させた時と変わらない口調で、今一番聞きたくない台詞を吐いてくる。

「わかってるよ! そんなこと!!!」

私は思わず手がじんわり熱と痛みを持つくらい机をバンッと叩いて、失礼でデリカシーのない奴の方を見る。勿論、顔は見ない。

大きな音を出す、という頭の悪い威嚇に相手は一瞬ビクッと身体を強張らせるが、すぐに態勢を整えて私に言い返してきた。

「な、なんやねん……そ、そんなに『王子様』が欲しいんなら……。」

次の瞬間、頭に上っていた血もすとーんと下へ、流れていた涙さえひゅっと戻っていく衝撃の言葉が私の耳に入る。

「俺が綾辻の『王子様』になったるわ!!!」

仁王立ちでビシッとカッコよさげなポーズを決めているあまり交流のないクラスメイトに、私は何を言えばいいんだろう。

そもそもこの台詞の意図は一体……もしかすると、これは彼流の慰め方なのだろうか。だとすると、既に怒鳴るという失礼な行動をしてしまった私は謝った方がいいだろうし……。

「…………あ、あの、気持ちは有難いんだけど、えーと、私は男の人に興味がなかったり、して……。」

だんだんと小さく曖昧になっていく私の台詞が終わるか終わらないか。その時にキッパリと。

「なら、男じゃなくて俺に興味持ちいや。」

……ああ、全然通じていない……いっつも一方的に因縁つけてくる人になんて、どうやって説明すればいい……。

失恋の痛みも吹っ飛ぶ衝撃のイベントに頭を悩ませていると、突如私の視界が緑でいっぱいになる。彼が私のすぐそば、目の前に立っているから。

「今だってそうや。お前、男とやったら目ぇすら合わさん。わかってんねん、ずっと見とったから。どうせ俺の顔も覚えてへんのやろ。」

一氏くんが切なげに色々と突かれたくないところを突いてくる。全部バレてた。

頑張って目の前の人物の顔を思い出してみるけど、黒髪に緑のバンダナまで思い出したところで、私の頭はビジー状態になってしまった。

いや、でも今日は口元は見た。整っているのだろうけど、最後に見た時は悔しそうに歪んでいた。目つきは鋭いらしい……らしい、肝心な部分を私は一切見てない。

「王子様の真似やったら、俺がいくらでもしたる。せやから、俺のことを……。」

その瞬間、ぐいっと両手で顔を挟まれ、私の視線は強制的に上へと向けられる。

「ちゃんと見ろや。」

初めて見た一氏くんの目は、私が想像していたものよりもずっと優しくって……。

それが、私がずっと大事にしていた王子様像をどんどんと塗り替えていって……。

……これが、私の王子様。

いつの間にか口から出ていた心の音、一氏くんの満足げな笑顔、消えてなくなった一方的な呪縛、上書き保存されたデータは保存前の状態には戻らない。

「せや、俺がお前の王子様や。」

噛みつくようなキスが、一氏くん以外の男を受け付けないようにした。




おわり




コメント
ガチホモって言われているユウジが、百合な子に恋したら不毛だろうなぁ。いいなぁ。
とか妄想して書いたんだけどなぁ。
百合な子のはずが、王子様に強い理想を持つ女の子になってしまいました。
王子様王子様うるさいのは最近見てるウテナの影響です。
続き書こうかなとか考えてます。

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