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創作な文章

活版印刷という物はご存知だろうか?

この活字を組み合わせて作った板を使用した印刷方法が普及したことにより、

今までとても高価で一部に人間しか手に出来なかった書物が、俺たち庶民の手にも渡るようになった。

活版印刷は俺たちにあらゆるものをもたらした素晴らしい発明と言えるだろう。

そして、その活版印刷がある程度世の中に定着した頃・・・とてつもない物が世の中に出回った。

それは今まで高い地位にいた者を一気に引きずり下ろし、同時に今までどちらかと言うと日陰の方で生きていた者に眩いスポットライトを当てることとなった。

あらゆる怪我・病気を瞬く間に直す治癒魔法と、例え命が尽きても老衰以外の死因、尚且つ死後1日以内であればその身に魂を戻してしまう蘇生魔法。

このふたつの魔法の使い方が書かれた本、俺たちが魔道書と呼ぶ本が活版印刷の力を借りて大陸全土に物凄い勢いで広まった。

怪我を治すんだ、非常に難易度の高い魔法だろう、

死んでいる人間を生き返らせるんだ、きっと使えるのもごく一部の魔法使いだけだろう。

・・・なんてことは一切なく、最低限の基本魔法が使えれば子供でも簡単な治癒魔法は使えるし、

蘇生魔法ですらも、どんな小さな村にはひとり使える人間がいるくらい・・・という難易度だった。

簡単で長く生きる為には必要不可欠なこの魔法が広まらないわけがない。

俺が物心つく頃にはすっかりこのふたつの魔法は身近な存在なっていた。

まぁ、それの何が地位の高い者の引きずり落としたかと言うと・・・。

今までは冒険者というものは、前線で勇ましく武器を振るう戦士が主流で、

まるで家みたいに大きなモンスター相手に向かってゆく様は子供たちの憧れの的だった。

一方、魔法使いはというと攻撃力そのものは戦士以上の者は多くいたのだが。
イメージが暗いだの、脆いだの、弱いだの、戦士がいなきゃ役に立たないだの、酷い言われようったらない。

だが、活版印刷により色々な魔道書、もとい色々な魔法が普及したせいで、

徐々に魔法使いの需要&人気が上がってきたところに、この治癒魔法と蘇生魔法の爆発的な広まり・・・。

完全に立場が逆転するには時間は必要なかった。

治癒魔法と蘇生魔法に個々が得意とする攻撃魔法、これさえあれば怪我しても大丈夫、

でかいモンスター相手にも正面から立ち向かうこともない、そんな魔法使いと。

怪我をしても自分じゃ治せない、でも怪我覚悟で突っ込んでいかないとでかいモンスターなんか倒せっこない戦士。

さて、どちらが冒険者として優遇されるでしょう?

答えは明らか。最早戦士は魔法使いが魔法を唱え終わるまでモンスターの攻撃を防ぐだけの壁、

ただの時間稼ぎ、ぶっちゃけ囮、なんていう子供たちからの憧れから一気に可哀想な位置へと転落していきましたとさ。

冒険者が共に冒険する仲間を求め集う酒場も、以前は魔法使いは少し遠慮がちに肩をすくませひとりテーブルで、

戦士から声をかけられるのを待っているのが多かったらしいのだが。

今はゴツそうな戦士が寂しそうに安い酒を飲みながら、魔法使いから声をかけられるのを待っている、そんな状態だ。

武器屋や防具屋もそう。

昔は重くて堅そうな戦士の為の武具ばかりが並んでいたらしいのに、

今は薄手で煌びやかなローブや、魔石をはめ込んだ杖だの魔法使いの為の装備ばかり並んでいる。

このままでは戦士という職業が消えてしまう・・・とまではいかないだろうが、戦士の地位はどんどん気の毒なものになっていくだろう。

だって、現に今も・・・。

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あきゅろす。
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