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2010年9月
真夜中にふと目が覚め、香は寝返りを打った。だが広いベッドには彼女一人で、ほんのりと温もりがあるだけだった。薄く目を開ければ、シーツの波に白く輝く筋が浮かぶ。窓を見遣れば、ブラインドを開けた撩が、紫煙を燻らせながらその隙間から外を眺めていた。

均整の取れたその輪郭が、白い光に浮かび上がる。ジーンズと裸の上半身という姿だったが、それが余計なラインを排除して、美しいとまで思わせる。

ふと時計を見れば、丑三つ時を僅かに過ぎた辺りだった。夜明けにはまだ早いが、そもそも前夜はお月見と称した飲み会をしていたので、寝た時間も遅かった。だから寝入ってからまだそれほど経っていない。

もう一度、香は撩を見た。どこか遠くを見つめるような瞳に、香は一つ瞬きする。そのまま寝てしまっても良かったが、ほぅ、と一つ息を吐くと、身体を起こし、シーツを身体に巻きつけ立ち上がった。

*******

香の立ち上がる気配を感じ、撩は彼女の方へと視線を向けた。そこに立っていたのは、白いシーツを巻きつけた姿の香だった。白く透き通った素肌と、無造作に巻かれたシーツが、細く差し込む満月の光に照らされ、輝く。

こんな姿をミック辺りが見れば、やれ女神だ、かぐや姫だと騒ぎそうだ…と思ったが、その裏で己自身も同じ事を思っていたりもして、その複雑な胸の内に、小さく苦笑を漏らした。

差し込む光に夜の闇すら柔らかく見え、静かに撩を見る香は、神々しいとさえ思った。このまま放っておけば月へ帰っていきそうな、そんな気もする。そんな彼女を地に繋ぎとめる己は、やはり罪深い人間なのだろう。

そう思いながらも、腕を伸ばせば、香は小さく微笑みを投げかける。撩も口端を上げると、傍らにあった灰皿にタバコを押し付けた。彼女を抱きとめるのに、片腕だけでは足りないと、そう感じた。

*******

「もう結構下がっちゃってるか」

ブラインドの隙間から香は外を眺めながら呟いた。月の事を言っているのだ。

「そりゃそうだろ。時間も時間だしな」

「っていうか、アンタ達、結局飲み比べばっかりして、全然お月見なんて楽しんでなかったわね」

アタシは美樹さん手作りのお月見団子とキレイな満月を楽しんだけど、と言われ、撩は苦笑する。

「まぁいいじゃん、満月なんかまた見られるだろ」

分ってないわね、と呆れ顔で見上げる香に、彼は肩を竦めた。

「それに、もっこりちゃ…って、そのハンマーは何かな香さま」

「アンタがしょうもないこと言いそうだから、用意してるだけよ」

「ごめんなさい言いません、だからそれは片付けて」

「…ったく」

言いながら瞬時に撩の腕の中に納まった香に、彼は小さく笑った。そして軽々と彼女を抱き上げる。

「さて、二人で月見もすんだし…もう一眠りしよっか、カオリン」

「って、ちょちょ、何すんのよぉ」

バタバタ暴れる香を見て楽しげに笑いながら、撩は彼女をベッドへ降ろし、その上に重なる。月の光が遮られたが、それでいいと撩は思いつつ、香の唇に己のそれを落とすのだった。

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