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CH拍手ログ
2010年11月
ひらり、ひらりと紅い葉が舞う。

郊外の喫茶店で、香は一人で紅茶を楽しんでいた。別に特別変わった事があったわけではなく、だからいつものようにCAT’Sに行って、いつものように海坊主の淹れたコーヒーを飲み、そして美樹と他愛もない話をしても良かったのだが、なんとなく今日は、違う所で…そう、香のことを知らない街に出て、ゆったりとした時間に包まれたかったのだ。

きっかけは、あったのかもしれない。朝、いつものように撩を起こし、朝食を一緒に食べてから、掲示板を確認しに行った。そしていつものようにビラ配りをサボりナンパを続ける彼を見つけたのだ。

銀杏並木の下で、鼻の下を伸ばした彼を見て、反射的にハンマーを召喚したのだが、そこでいつもと違う気持ちになったのだ。

その気持ちを表現する事は難しいのだが、なんとなく、心の隙間に秋風が入り込んだ、とでも言えばいいのか。

彼はきっと香と出会う前から、それこそ兄とパートナーを組んでいた頃から、こんな日常を続けていたのだろう。そしてたまに気のあった女性がいれば、一時の逢瀬を楽しんでいたのかもしれない。

ならば、自分がこんなことをするのは、無駄なのではないだろうか…そう思ったのだ。美樹辺りにこの事を言えば、そんなことはないと言ってくれるだろう。そもそも、何度も夜を重ねるようになった二人なのに、そんなことで遠慮するなんておかしいとまで言われそうだ。

そこまで考えて、香は白い湯気の立つティーカップから目を上げた。店のすぐ外には紅く染まった紅葉が、葉を散らせている。なんとなく見ていると、テーブルの向こう側の椅子に、誰かが座った。驚いてそちらへ視線を移せば。

「…撩!」

「なーに一人で優雅にティータイムなんてしてんのかな?」

何故かほんの少し不機嫌そうに机を人差し指でトントン、と叩く相手に、香が目を見開いた。

「今日、発信機のついてない服だと思ってたんだけど」

「おまぁ、確信犯かよ」

なんだか拗ねたような顔になった相手に、香はクスリ、と笑みを零した。

「紅茶、撩も頼んだら?すっごい美味しいから」

「俺、コーヒー」

香の薦めも聞かずにコーヒーを頼み、運ばれてきたそれに口をつけると小さくため息を漏らす。

「悪くないけど、やっぱ美樹ちゃんの淹れたヤツがいいな〜」

そう呟くとそのまま飲み干し、香の分の伝票も掴んでさっさとレジへと向かう。

「ちょ、撩!」

「ちぇっ、今日のコーヒー代使っちまったじゃねぇか。香ぃ、帰るぞ…しょうがねぇから家でお前の淹れたのでも飲むか」

ぶつくさと言いながら、彼の耳がほんのりと赤いことに気付き、香は微笑んだ。

「もぅ、わかったわよ」

そう呟き、香も撩の後を追うように店を出る。

残されたティーカップには冷めた紅茶がほんの少し残され、ガラスの向こう側の秋を映しこんでいた。

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