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30













「テメェふざけんなよ」

「すみません、いやマジでゴメンなさい」





鬼のように仁王立ちしている先輩。
そしてその前に土下座して謝る私。

ああ、なんて惨めなことだろうか。数分前に大口言った時に戻りたい。
そう思いながら私はモンスターボールを握りしめ、おずおずと彼に話しかけた。





「いや、まさか私もガーディだとは」

「何言ってんだよこの大馬鹿野郎が。テメェよくも人の事言いやがって、ああ?」





え、何この人凄く怖いよ。
バキバキとなんとも不愉快な音をならしながら、今にも殴ってきそうな拳が私の上にある。
そう思っただけで身体がカチカチに固まってしまった。
いや、実際に女殴るなんて事はしないだろうが、何か別の事をされそうで怖くてたまらないのだ。




「でも、私本当に知らなくて・・」




震える手を握り締めながら下を向き、小さな声で私は呟いた。
すると目の前にいた彼は何を思ったのか、ガーディと私に勢い良く掴みかかり、そのままズルズルとドアの前まで引きずられた。
すぐに「キャン」とガーディが鳴く声と、私の「ぐえっ」と喉の潰れた声が廊下に響き渡り、部屋の外へと放り出された事に気付く。
そのまま強く打ち付けたお尻を擦りながら上を見上げれば、鋭く睨みつけてくる恐ろしい顔とバッチリ視線が合った。




「そこで反省してろ」




バタンッと勢い良く閉まるドアを最後に、廊下には暫く沈黙が続いた。
廊下の寒さのせいか、震えながら「クーン」と寂しそうに鳴くガーディの小さな頭を撫でながら、とりあえず私はゆっくりと立ち上がる。
無言でただ廊下を歩き進み、暫くして私はエレベーターの前までやってきた。
上の階へのボタンを押し、まもなくして到着したエレベーターのドアが開くと、私は顔だけ廊下に出して中へと乗り込んだ。
視線を自室へと向け、腹の底からフツフツと湧き上がる感情が口までくると、もう我慢は出来なくなっていた。






「後輩信じられないとかバッカじゃねーの?!この糞ヤドン!!!」





瞬間、廊下を凄まじい速さで駆け抜けてくる足音が聞こえたが、私は素早くエレベーターのドアを閉めた。
「急げ急げ」と意味の無い呪文を繰り返し、そしてまた意味の無いボタンの連打をしながら動き出したエレベーターにほっと息を吐く。
ドクドクと五月蝿い心臓を手で押さえ、私は浅い呼吸を何度も繰り返した。



(ああスッキリしたー、ざまあみろ)




「あっははは」と高笑いしながら、私の足は異常な程にガクガク震えていた。
















* * * * *
















「さぁガーディ!遊んでいらっしゃい!」




青い空に程よい日差しという絶好の外出日和に、私はうーんと背伸びをした。
基地を飛び出し、少し離れた場所へと歩けばすぐ近くに草原があることをつい最近しり、これぞばかりに私はガーディをはなす。
ここは目立たない街外れの場所というだけあってか、周りには自然が多くて私のお気に入りの場所となるのには時間がかからなかった。




「あー、ポカポカしてきもちいなあ・・・・なーんか嫌な事もすぐ吹き飛んじゃうよ」




吹きぬける風と揺れる草花の音を聞きながら、私は目を閉じる。
こうしているだけで、今自分がロケット団にいることさえ忘れてしまいそうだな なんてつい有り得ないことまで思ってしまう。
それ程心地のよい空間に浸っていると、遠くからポッポの鳴き声と、羽ばたくために風を裂く翼の音が聞こえてきた。

ああ駄目だ、本当に寝てしまいそうだ。




「ガーディ、ほらこっちおいでー」




ゆっくりと目を開けて草原を見渡す。
そこには楽しそうに走っているガーディーの姿が、そう思っていたものだから私は視線の先にあるものに驚いて目を見開いた。




「えええええええ!がっ、ガーディ危ないよ!!!」




グルルルルと凄まじい唸り声で威嚇する大きな犬の下に、ビクビクと震えているガーディを見つけ 私は叫ぶ。
これは危険だ。そう思ったら自然と私の足は前へと走り出していた。
ガーディを庇うようにして、目の前で牙を出す猛獣のような犬との間に身体を滑り込ませる。
噛み付かれるのか。
私は震える手を必死に握り締めながら、そんな事を考えてしまった。





「ヘルガー」





突然、この場には似合わない冷静な声がしたと思ったら、気付けば目の前の大きな犬はいなくなっていた。
正確に言えば、主の元へと帰っていったのだ。
私はさっきの犬はヘルガーだったのかと認識すると、一気に体中の力が抜けていくのがわかった。
あの威嚇している顔は怖すぎて、もうポケモンなのかすら分からなくなっていたから無理もないと思う。

そして重要な主の顔に視線をやると、私の心臓は再び跳ね上がった。





「うわっ・・アポロ様!」

「その『うわ』ってなんですか、傷つきますねえ」





平然とした顔でこちらを見てくる幹部様に、私はパニック状態に陥る。
いや、まずさっきのヘルガーがアポロ様の足元で嬉しそうにゴロゴロしているのが凄く気持ち悪いんだけども。
思ったことが顔に出てしまったのか、アポロの鋭い視線が私の方へと向けられた。





「なにかヘルガーに文句でもありますか」

「いえ・・、とても懐いていらっしゃるようで羨ましい限りです」

「・・・・アナタ、顔が思いっきり引きつっているのにお気づきですか?」

「何言ってるんですか、これ笑顔ですよ、笑顔。今流行の」

「そんな顔が流行なんですか、ほお」






わざとらしく強めな口調で笑いかけてくるアポロに、私は冷や汗をかく。
何故かこの人は私の事を苛めたがるようだ。とくに言葉攻めで。
するといつの間に目の前にきていたのか。アポロはややしゃがみ込み、私の目の前にその綺麗な顔を近づけてきた。






「ソイツは何です?」

「え・・・ああ、ガーディのことですか」

「そのポケモンを何処で?」

「あー・・いや、元々持っていたんで」





嘘ではない、嘘では。でも気付いたのは今日だけども。
と言うよりもこう言っておかないと、まずい気がしたのだ。「実はこれ捕まえて」なんて言った日には終わりだと思う。
それは目の前の彼の顔が凄く嫌そうな表情でガーディを睨みつけていたからだ。





「私はソイツがあまり好きじゃないんですよ」

「そうですか、私は好きです」

「ああそうですね、確かにソイツはアナタによく似てますね」

「正義感あふれてるから?」





ガーディと言えばよく警察が手持ちにしているポケモンだ。
対してヘルガーは悪タイプのポケモンとだけあってか、こういった組織には凄く似合っている。
そこをアポロは気にって入るのか、どうやらこのヘルガーが一番のお気に入りらしい。

私はガーディーを彼の目の前に押し出すと、素早く一歩後ろへと退けられてしまった。





「そう言う冗談はよしなさい」

「何でですか!凄く可愛いじゃないですか」

「何度も言いますが、私はソイツがあまり好きじゃないんですよ」

「理由は」

「アナタの言ったとおりですよ。まあ強いて言えばその目が気に入りませんね」






言うなり、彼はひょいっと私の手からガーディを取り上げてしまう。
呆然としている私をよそに、彼はそのままガーディを掴んだまま後ろへと振り返る。





「すみません、ちょっと来なさい」

「はい」

「お呼びですか、アポロ様」





何処に隠れていたのか、いつの間にか2人のしたっぱ達が私の目の前に現れた。
彼等達はアポロ様の部下なのか、何故か他の所属のしたっぱ達よりも大人びているのは気のせいだろうか。
ぽかんとして私は口を開けていると、アポロ様はなんとガーディをそいつらに渡してしまった。






「コイツを売ってきなさい」

「はい」

「了解しました」

「いやいや『はい』じゃねーよおお!!!」






素早く私はガーディを奪い返すと、そのまま数歩後ろへと後ずさる。
この人は鬼か、いや悪魔か。私は必死のあまりに、肩で荒い呼吸を繰り返す。
それを楽しそうに眺めるアポロは何を思ったのか、顎に手を添えながら何かを考えていた。






「でも私のヘルガーがソイツの事を気に入らないらしいんですよ」

「何自分の気持ちをポケモンになすりつけてんのこの人おお?!!」

「いや、本当ですよ。見なさい」





チラッと彼の足元を見れば、そこには何とも不機嫌な顔で唸っているヘルガーの姿が。
え、さっきもだけど何かそんなに気に入らないの?こんなに可愛いのに!皆鬼だ。
フツフツと湧き上がる怒りに私は拳を震わしていると、目の前にいるアポロは「では」と言って手を打った。




「実力で決めましょう」

「は・・・実力?」

「はい」

「・・・・どうやって?」

「簡単ですよ、アナタのガーディが私のヘルガーに勝てば良い」

「へー、そうなんですか」

「はい、そうしたら認めてやっても良いですよ、そのポケモンを」

「うわー、やったねー」





無 理 だ ろ
ただ一言私の心の中ではずっとその言葉が響いていた。
いやさ、なんで最高幹部様の犬と今日発見したばっかの可愛い子犬が戦わないといけないわけ?
どんだけ弱肉強食なんだ此処は。何かを察知したのか、ガーディはずっと震えているし。本当に可哀想でならない。
だとしたら選ぶ道は一つだろう。そうと決まった瞬間、私はくるりとアポロさまに背を向けた。





「さようならっ」





逃げるが勝ち。私は素早く草道を駆け抜けた。
このまま何処か適当な場所に隠れて、奴等が去るのを待とう。それが一番この子も安全だ。

そう思って道を走っていた筈なのに、何がどうなったかのか。早くも私の身体は宙へと浮いていた。
「嘘・・」と言う言葉と同時に、目の前にいるしたっぱ達の笑みがゆっくりと私に向けられた。






「逃げるなんて卑怯だと思わないのか?」

「まったくもって馬鹿な人ですね貴女は」






罵られた言葉と、がっちりと掴まれた腕と足。
お姫様抱っこだけど何処かときめかないこのシチュエーションに、背中にヒヤリと冷たい風がかけぬけた。
こいつ等本当に怖いよ、なんなのいったい。



















はじめまして

















「本当に似てますよねえ、アナタとガーディ」




クッと小さく喉の奥で笑いながら、アポロはヘルガーをボールへとしまった。
そのまま目の前で騒いでいる彼等に背を向けて、そそくさと基地へと戻る道を進んだ。




「せいぜい私の下っ端には勝ってもらはなくては困りますよ、名前」




弱い者なんて必要ない。私の嫌いな者なら尚更。
それはポケモンだけじゃないことも、アナタは気付いているんでしょう?






(私は嫌いなんでしょうかね・・・)






そのポケモンに似ているアナタを




















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新展開ですね、はい((
そして遅くなってすみません、本当にすみません(土下座

さて、アポロ様としたっぱフィーバーでしたが、なにこれ←
新しい奴等2人出しゃばってます。アポロ様の部下は初出しです。
これからこいつ等と主人公ちゃんが戦っていくという激しい物語があr(ないないない
でもバトルします^^



11/05/29

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あきゅろす。
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