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「ったく・・・寝みい」





んー、と大く伸びをした後 彼はいつものように自室の扉に手をかけた。
欠伸をしながらドアを開け、そして目を見開く。
きょとん と何度が目をパチパチ瞬いた後、目の前で倒れこんでいる私の姿に眉を寄せ呆れたように叫んだ。





「おいおい、お前んな所で何ケツ突き出してソファーに伏せてんだよ。俺様に蹴られてえのか?」

「ドS!だが萌え!」

「きっめえ」




クッション越しから聞こえるくぐもった声に、またもや呆れた溜息が部屋に響き渡る。
ずかずかとソファーに近づき そのままクッションを取り上げられてしまえば案の定、顔が真っ赤になった私の顔を彼に見られてしまった。
「これが自分の後輩だと思うと、なんだか悲しくなってくる」そう言いたげな顔をして、彼は上から私を睨みつける。






「おい、そこのブス」

「え、なに。本当にSMプレイに目覚めました?」

「何言ってんだよ、今のお前は誰が見たってブスだ、ブス」

「ひっ・・ひど」






ズバズバ言ってくる彼に私は涙目になると、その場で深い溜息を吐かれる。
ぐずっと鼻を啜り、目尻に溜まった涙をゴシゴシと擦れば更に顔が赤く染まってしまった。


ああ、こんなんじゃ本当にブスだよ・・・。


そんな私があまりにも惨めに見えたのか、眉間にシワを寄せ壁にやる気なくもたれ掛かっている彼が静かに口を開く。






「どうせまた、くっだらねーことで泣いてんだろ」

「・・・・・・」

「お前って普段うるせーのに、たまーに一人で意味もなく泣くよな」

「・・・・・・」

「なーんて言うかよお」





唇を噛み締めて話を聞いている私に、彼は遠い目で窓の外を見ながら自分が被っている帽子をひょいっと取る。
そのままクルクルと帽子を指で回し、何事も無かったかのようにいい加減な口調で話し始めた。





「友達いなさそうだな、お前」





ハンッと鼻で笑いながら、そこで彼はやっと私を見た。
正確に言えば、『見下した』になる。凄く、凄く馬鹿にしたような溜息を吐きながら彼はニヤニヤしていた。

今、何て言った・・・・?

慰めてくれるかと思ったら、なんだこれは。これじゃ逆に馬鹿にされるんじゃないのか。
そこでピクリと私の肩が揺れ、怒りでわなわなと握り拳を震わせてそのまま勢い良く真っ赤な顔で彼を睨んだ。





「あっ、あんたに言われたくないわああ!」

「いるぜ俺、やっさしい友達」

「私だって・・!いますよ!」

「誰だよ?」





先輩


とか言えない、死んでも絶対。
私は今にも泣きそうな顔で床をダンダンッと手で叩きまくった。何故、こんなにも悔しいんだろうか。
するとそれを見ていた彼はブフッと吹き出し、腹を抱えて笑浮いだす。
そして顎に手を添えながら何処か楽しそうな様子で彼は頷き始めた。





「まー、彼氏の一人や二人も居なさそうだしなー。男装してたぐらいだし」

「ぐぬうう・・・、アンタだって・・・」

「まぁ俺様は当然いたけどな、ちょっと前だが」

「ぶふっ・・・!あ、ありえない・・・!い、いやでも今はさすがに居ないじゃないですか」





強がりながら私はフンと鼻で笑った。
だがそんな精一杯の強がりはすぐに打ちのめされてしまう。
彼は意地悪そうな笑顔で私の顔を覗きこみながら、強烈な一言を発す。





「お前と同室になるのに女が居たら、お前には刺激が強いだろ餓鬼」

「この人最っ低!うっわー、マジ引くわあ」

「マジお前の鼻水の方が引くぜ、うっわー」

「死ね!」






本気で真っ赤になって襲い掛かってくる私を見た彼は噴出すなり、涙目になりながら大きな声をあげて笑い出した。
そしてちゃっかり持っていたティッシュで鼻水を拭く私の姿がツボにハマッたのか、床をバシバシ叩きながら必死に呼吸を繰り返えす。
そんな彼に私は羞恥心よりも先に怒りが湧いてきて、ティッシュ箱を彼の頭に振り下げようとしたらあっけなく腕を掴まれた。






「おっもしれーなお前、久々に笑わしてもらったぜ。あー腹いてぇ」

「ひっどい!本当に最低っ」

「だって俺様ロケット団だし?」






その言葉を聞き、自然と私の肩はピクリと反応してしまう。
先程ランスと話した会話がいっきに頭の中を駆け巡り、気付けば服の裾をぎゅっと掴んでいた。
目の前に居るのは間違いなく本物のロケット団。私とは『違う』目的でここに居る事を、今更ながら意識する。


ああ、彼はロケット団で、私はただの―――



・・・ただの、何だろう?


思い出せないと言うより、思い出したくない。
だって思い出したら、本当に自分が此処に居られなくなるような気がして・・・。
いや、そもそも私はロケット団になりたくて此処に来たわけではない。その理由は、自分が一番良く知っている。
じゃぁ何で私は、こんなにも認めたくないんだろうか。

さっさとやる事やって、こんな所出てって。そしたら皆に会いに行って―――



ただいまって言いたい。



そう言えるのは、此処じゃない。
だからじわじわと再び熱くなってきた目を擦りながら、私は目の前にいる彼の顔を少しだけ睨んでみる。





「こんな意地悪な先輩の所なんか、さっさと出てってやる」

「おー、出れるもんなら出てってみろ」

「言いましたね、そのうち本当にやる事やったら出てきますか・・ら」




ボロッと、溢れた涙をまた擦ろうとしたら、掴まれていたままの手をぐいっと引かれる。
そのまま何かを顔に押し付けられたかと思えば、彼の帽子がぐしゃっと潰れた状態で私の涙を拭っていた。
そしてあの意地悪な顔は何処へいったのか、彼は少しだけ悲しそうな顔をして私に笑う。




「また帰ってくんだろ?」




言われて私は、言葉がつまった。
なんで彼がここまで私を気にかけてくれるのかも、居場所を与えてくれているのかも分からないけど。
それでも私が心配していることを全て吹き飛ばすかのように、彼の言葉が温かく胸に入り込んだ。
まだ素直にはなれないけど、いつか私は此処が好きと言える日がくるのか。
自分が許さないと思うこのロケット団の基地で。短い時間の中、そう思える日が、いつか。






「ただいまって、言ってほしいんですか?」






少なくとも優しく涙を拭ってくれるこの人の温かみを、私は『好き』だと思う。
笑って言えば、彼もまた同じく笑顔で「あぁ」と答えてくれた。







「ロケット団なんて馬鹿ばっかだしだからよ、あんま深く考えんな」






























好きな場所






























「今日はもう寝ろ」と、そう言われた気がして、私の意識は少しずつ遠退いていった。
きっと明日になったら、また今までみたいに笑って仕事をするんだ。
そして先輩と馬鹿やって、怒られて、泣いて。


それはきっと、今日より楽しいであろう日の始まりなんだ。


だから今日は安心して、ゆっくり休もう。






「・・・あ?んだこれ」





遠くで先輩の声が聞こえたけど、私は気にせずに眠りにつく。
だが次第に「ワンッ」やら「ガウッ」など人間では無い声が聞こえてきて、私は嫌な予感がしてならなかった。
そして私は必死に呪文のように心の中で唱える。「どうか私にとばっちりがきませんように」と。








「おい名前、お前だろ。いやぜってーお前だな?あぁ?」








顔を無理やり上げさせられれば、そこには何ともまぁ可愛らしいワンちゃんがいることで。
クリクリした目を私に向けながら「ワンッ」と吠えるワン子。そしてそれを掴みながら修羅の如く怒る彼。
私じゃないと言っても、どうせ彼は信じてくれないだろう。いや、日頃の私の行いが悪いのが原因だけども・・。
複雑な思いで犬と先輩の顔を交互に見比べていると、しびれを切らした彼は犬を放り投げると私の胸倉に勢い良く掴みかかった。





「おいおいおい、また面倒事をお前は・・・!!」

「いや、本当に私知りませんってば!!なんでこの子がこの部屋にいるのかも・・・ってかいつからいたんでしょうかね」

「それを俺様がお前に聞いてんだ!!とぼけんなよ」

「いや、だから違うって言ってるじゃないですか!!」





本当に身に覚えが無かった私は彼を押しのけ、精一杯の声を上げて反論する。
すると彼は一瞬怯んだが、それでも負けじと私を睨んでくる先輩。
両者一歩も引かずに「違う」「いや、絶対そうだ」と言い合っていること数分。

再び「ワンッ」と声をした方を振り向けば、先程のワン子がブンブンしっぽを振ってこちらを見ていた。




「ほら、先輩の顔見て嬉しそうにしっぽ振ってますよ」

「馬鹿言うな。俺様にはお前の顔を見てるようにしか見えねえよ」

「ヤドンだけではなく犬にも好かれるとは・・・いやー流石モテる男は違いますねーあっはっはっはー」

「お前今日寝かせねーからな」




笑顔でサラリと言ってのけた彼に、私はブルッと肩を震わせた。
なぜならこういう時の先輩の顔は、『本気』で言っていると私は知っているからだ。
勿論、お説教とお掃除セットがもれなく付いてくるのだろう。そんなの絶対嫌だ。




「いやでも、私じゃないですから!!それに、最初に見つけたのは先輩でしょ」

「あんなソファーの上で丸まって寝てるとか誰が思うかよ!お前だけでも面倒だってのに犬なんか連れて来るかっての!」

「うっわー・・・」




面倒言われたよ。しかも結構本気で。
またもや言い合いそうになった空気に舌打ちをしつつ、私は横目で犬をチラリと見た。
すると何故か、犬の下には私のモンスターボールが転がっていて、一瞬我目を疑う。



(あれ・・・あんな所に落としちゃったんだ)



ズバットが入っているであろうそのボールを拾おうと、未だに怒っている先輩を押しのけて手を伸ばせば行き成りボールが開いた。
そして結末は最悪な方向へと進んでいく。





「え」





先程のワン子が赤い光に包まれて、なんと私のボールの中へと入っていった。いや、多分戻ってったんだと思う。
これってあれかな、もしやズバットだと思ってたらアレーみたいな・・・
兎に角私はボールを片手に持ち、ピースをしながら彼に振り返った。





「ガーディゲットだイエーイ」





その後の結末なんて、誰もが分かりきっていることだろう。















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更新・・!!ぐはぁorz
遅くなってすみません、本当にすみません(土下座

ヤド先輩、やっぱりギャグが良いですよね彼は。

さて、次回はアポロ様としたっぱフィーバーです。


10/03/27

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