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『私も、ただ世界征服をしたいと思うだけの子供にすぎん』










その言葉だけは、忘れたくは無かった。

この言葉だけは・・・・・・本当であってほしかったから―――――





















「サカキ様・・・・・」








ポロポロと目から溢れ出す涙に、流石のランスもギョッとしたのか 名前の服を掴む手を離していた。
今まさに自分が気にかけていた人物の名を漏らしたかと思ったら行き成り泣き出し、
そして寂しそうな顔をしてランスの服を掴んでくる彼女の行動に驚いていると、次第に名前の泣き声はどんどんと大きくなっていった。






「なんで・・・・なんでっ」

「な、・・・・なんですかいきなり」

「なんでっ、置いてっちゃうのっ・・・・なん・・・でっ」





そしてついに、本格的に泣き出した彼女にランスは困惑していると いつのまにか名前に物凄い力で服を掴まれ、
そのまま引き寄せるなり ランスの胸に顔を押し付けるような体勢になっていた。
だがランスは状態について行けず、目を何回か瞬きしてただ固まっているだけだ。

そんな彼の様子に名前はまったく気付く様子もなく、そのまま彼の背中に腕を添えるなり強い力で抱きしめる。
そこでランスはピタリと完全に身体が凍りつき、暫くの間指一本動く事無く 頭の思考まで止まってしまった。






「もう・・・・わかんないよっ・・・・、わた・・しはっ・・、何をすればいいの」

「・・・・」

「どうせっ・・!何も出来ない・・しっ・・、わたしっ・・・・置いてかれたくない」

「・・・っ」





気付いた頃には目の前に彼女の泣き顔が見え、名前がランスの顔を見ながらしっかりと言った言葉に対し、彼の顔が弾かれたかのように勢い良く上がる。
そして彼はそこでやっと状況を理解し始め、再び目を瞬かせた。

今現在、彼女に抱きしめられながら二人で床に寝転がっているこの状態に異常を感じたランスは バッ と素早く顔を上げ、
起き上がろうと足と腰に力を上げたが次の瞬間、名前が再び強い力でそれを引き戻したため それは失敗に終わる。

一瞬の出来事にランスは驚きどころか、逆に彼女の何処にこんな力があったのか不思議に思ったが
今はそれどころじゃないと思ったランスは顔を真っ赤にさせ、目の前に居る名前を容赦なく睨みつけた。





「貴方っ・・・、いい加減に離しなさいっ・・・!私は泣かれるのが一番嫌いなんです」

「いやっ・・・!置いてかないでっ」

「は?言っている意味が分かりませんが。兎に角さっさとこの腕を退かしなさい」

「お願いっ・・・、何処にも行かないでっ・・・!」

「っ・・・!?」





ランスの女性に対する日頃の優しい態度が裏目に出たのか、それとも彼女の涙を流す姿をあまり見ないせいか。
目と鼻を真っ赤にして、ボロボロと涙を流しながらせがんでくる彼女の姿に息を呑み、ランスは口を閉ざしてしまった。

いつもなら嫌そうな目で睨んでくる彼女の瞳は、今は私を求め そして何処にも行くなと言ったのだ。

何故だろうか。先程まで苛立ち 興奮していた憎い嫉妬心がいっきに冷め、それどころか今は彼女に始めて求められたと言う
この状態に心臓の鼓動が早くなっていったのに、ランスは汗を浮かばせながら自覚し始めていた。



(おかしい・・・・、何故だ何故っ・・・!何故彼女がこんなにっ・・・)



こんなに・・・・・




その先の言葉を飲み込み、ランスはそれだけは言ってはならないと自分を抑え 静かに息を吐いた。
取りあえず落ち着けばなんとかなるだろうと考えた彼は抵抗するのを止め、そのまま動かないで神経を集中させることにする。
だがそこで名前が突然泣きじゃくるのを少し止め、息を整えながら涙声で必死にポツリと喋り始めた。






「ずっ・・・と、サカキ様しか夢に出てこないっ・・・!あの日から、ずっと・・・・・彼が言ってた言葉を忘れたくないしっ
 それがっ・・・正しい・・と、思ってたかっ・・ら。でも、それが最近、わ、からな・・・くなって、きてるし」

「・・・・・・」

「サカキ様のっ・・・そばに居たのにっ・・・・本当に、それが正しっ・・いのか、それでいいのか・・・わからな・・いけど、
 そう思いたかったから、自分がっ、都合の言い様に解釈・・して、それを言い訳に・・・押し付けてきたのかなって」

「・・・・は」

「いつもっ、ランス様やアポロ様達を見てる・・と、本当にロケット団っ・・と、サカキ様が大事なんだなっ・・てっ、
 最初はランス様の、言葉に反抗したけ・・ど、もしかしたらアポロ様や・・・アテナ様だって言わないだ・・・けでっ、心の中では・・」

「・・・・」

「早く、サカキ様に会って・・・ロケット団、を・・復活させてっ・・・・!そのた・・めには、前みたいに・・あんな優しい
 事をしてたら・・・いつまでも時間が・・・かかるから。だからきっと・・・・!」

「・・・言う事聞かずにもたもたと甘いことを言っている貴方みたいな部下が邪魔で仕方が無いと・・・?」






静かに頷き、またしゃくり声を上げながら泣き出した名前に ランスは何を言わずに、じっと顔を見ながら考え始める。


確かに、今彼女の言った事の半分は本当だろう。

今まで馬鹿みたいにギャーギャーと五月蝿く言いたい放題言っていただけかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
ちゃんと彼女は彼女なりに、一人になればそれなりに物事を冷静に考えられているのかもしれない。

彼女の言う夢の細かいことは知らないが、兎に角過去にサカキ様が言った台詞に希望を持ち、昔のロケット団が好きで
今のロケット団に過去のものを求めたが、そんなやり方とは反対の私達の行動に苛立ち、反抗したのか。
詳しい事は私もまだよく分からないが、だがお互い理解せず、理解してもらえず な状態だったのは間違いないだろう。


だが彼女今はそれを理解し、自分が他人からどう思われているのか


ロケット団としての自覚を持ち始めている彼女は今までのように自分の気持ちで行動するのか、または
今あるロケット団を取り締まっている我々幹部のルールに従って行動するのか

どうして良いか分からず、迷いに迷って・・・・・・・こんなに泣いてしまったのか。
責任は感じないし、寧ろコチラにそんなの無いだろう。
だがこのまま彼女を無視したら、自分の中の何かが罪悪感で埋め尽くされそうだった。

ランスは重い溜息を吐き、目の前に居る彼女を見た。







なんにせよ、どうするかは彼女次第――――






「・・・・少々貴方を馬鹿にし過ぎていたようです。・・・まぁ、私も先程は取り乱して言い過ぎたかもしれませんし、一つだけ言いましょう」

「・・・・は・・・」

「私は、理解の無い馬鹿は嫌いです」

「・・・・・・は、い」

「何度言っても理解をせず、傲慢な性格によって大切な組織が潰れてしまっては・・・私もアポロ達も許しません。勿論サカキ様も」

「・・・・・はい・・・」

「ですが、今のあなたの様に。ちゃんと『自分勝手な意見を押し通せば組織が潰れる』と言う事を理解していれば、あとは簡単です」

「・・・・・え」









「最低限、こちらの計画の邪魔をしないように行動しなさい。あとはご勝手に、なんとでも言えばいい」

「あ・・・・」






計画を邪魔しないように行動しろ  そんな言葉は今まで何十回とも聞いてきた筈なのに、何故だろうか。
今のランスの言葉に、名前はまるで カチッ と何かがはまったかのような音が頭の中で響き渡り、一瞬にしてそれは形になった。


泣き止み、そして何も言わずに止まっている名前にランスは小さく微笑し その耳元に唇を寄せて囁く。










「まぁ、少しは期待してやっても良いですが」









その時名前は、また涙を流してランスを見上げた。
強く抱きしめていた彼の身体を離し、そのまま離れていくランスの背中に名前は少しかすれた声で叫ぶ。






「あ・・・有難うございます」



一度も振り返らず、彼は名前には見えないように小さく目を細めて 静かに部屋を出て行った。



























越えた先には




























廊下を歩き、暫く何も考えずに無言でいる事数分。
ふと、ランスは足を止め、先程まで背中に触れていた感触を思い出し いっきに顔が熱くなった。
そういえば彼女から触られたのは初めてなのかもしれない。そして彼女のあんな泣き顔を見たのも、おそらく。

そして視線を床から廊下の先へと戻そうとしたその時、いきなり目の前に見知った顔がじっとこちらを見つめていて 思わずランスは驚き、後ろへと後ずさってしまう。
そこには恥ずかしさで更に赤くなったランスの顔を面白そうに覗き込んでくるラムダの顔があり、顎の髭を楽しそうに撫でながら彼はランスに笑っていた。




「なぁーにニヤニヤしちゃってんの。 おまけに顔真っ赤にしてさぁ〜、なんか良いことあったわけ?ん?」

「退きなさいっ、邪魔です」

「やー、照れちゃって可愛い〜」

「うるさいっ!!」

「あー、ほらほら逃げないのーランスちゃん」

「気色悪いので近寄らないで下さい、本当にっ」








あの時彼女に怒鳴った自分が馬鹿馬鹿しく思えたが、実際に自分も子供だったのかもしれない。
少なくとも、彼女と自分は 少し何かが変わったんじゃないかと思う。




あの時、嫌いで仕方が無い筈の私を退かす事無く 朝までそっと寝かして置いてくれた彼女に、少なからずとも私は人として感謝ぐらいはしていた。


ランスは横で未だにごちゃごちゃ言っている彼を無視してそんな事を考え込んでいると、
ふとラムダがランスの服に目を止め、不思議そうな顔をしてコチラを見つめてくる。
そのまま彼は器用に方眉だけ吊り上げて口を開き、探るかのように喋りだした。






「なぁ、ランス」

「・・・・・まだ何か」

「お前寝てたんだよな」

「そうですが・・・・」

「・・・・・・・・お前の服さぁ。襟から肩、すっげえ濡れてんけどよ」

「・・・・・あっ・・・・!」





しまった


ランスはあの時に泣きすがった名前を退かす事無くそっとしておいたせいで、自分の服が彼女の涙で染みになっている事に気付かなかった。
そのせいか、今それを思い出し「やってしまった」と気まずい顔をしたランスの表情を変に読み取ったのか、
ラムダがいきなりニヤニヤしだし、そのまま嬉しそうにランスの顔を覗き込んでくる。






「ヨダレたらすとかダッセーな、おいっ」

「・・・・・・・・」





ゲラゲラと馬鹿にするように笑い転げるラムダに対し、一人静かにランスの周りの空気は冷たくなっていった。
握った拳はフルフルと微かに震え、そのまま無表情で小さく舌打ちしたランスの表情は冷酷と呼ばれるいつもの彼の顔で、その威力は凄まじい。

そしてチラリと横目で見たラムダがそれに気付き、笑うのを止め冷や汗を垂らして固まる。



「や・・・でもよ、ほらすぐ着替えりゃいいじゃねーか・・、なっ?脱げばいい事なんだからよ」




だがランスは小さく鼻で笑い ラムダの言葉をどう解釈したのか 行き成りその場で上着を勢い良く脱ぎ捨てるなり、上半身裸で気にする事なく廊下を歩き出した。






「・・・ドイツもコイツも、本当にムカつきますね。殺したくなる程」






苛立ちによる笑いが止まらず、クツクツと喉で笑いながら歩いていくランスの背中を ラムダは黙って暫く見つめていた。






「とりあえずその格好で笑って歩くな。」





「気持ち悪いから」 だがラムダはその言葉を飲み込み、必死で引きつる顔を堪えてランスの姿を隠すように後ろに付いて歩いた。
今彼を侮辱するような言葉を言えば、間違いなく殺される。 ・・いや、それよりも自分が素っ裸にされてその辺に転がっているだろう。
ランスならやりかねないから尚更怖い。現に今も彼は俺の服に押し付けるかのように自分の脱いだ服を無言で押し付けてきた。








(まぁ、きっとあのお嬢ちゃんとまた何かあったんだろうけどよぉー・・・。)










当然のように「着替え」と顎でラムダに命令したランスの姿をアポロに見せてやりたいと彼は思ったが、
後に「遅い」と尻を軽く蹴ってきたランスは本当に今日は機嫌が悪いとラムダは思った。




まぁ、機嫌悪くした原因は俺様だしなー・・・




「面倒くせ」と、ラムダはランスに聞こえない声で静かに舌打ちし、そこの辺に居たしたっぱを取りあえず壁の隅に呼び出した。
着替えなんてありゃイイだろ。




「ほれ」っと差し出された生暖かい着替えに、ランスは当然の如く顔を顰めてそれを窓の外に放り投げた。





















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ランスがようやく動きました。
これで恋愛要素がギャグよりも多くなるんじゃないK(ないないない



最後ランス様は歩く18禁になってますねGURUUUYAHOOOO!!!^O^)/★ミ(氏ね


10/04/12


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