夢見の部屋
えぶりでぃ、日常。
初夏の季節。
吹き抜けるさわやかな風と共に、足どりも軽く、僕は帰路の坂道を下りる。
(僕の書いた小説が、出版されるんだ…!)
ギャグの要素や恋愛の要素もないつまらない物語が、リアルな体験談をそのまんま表現した物語が、やっと認められたんだ!
(おかんに報告しよう…!)
そう思って僕はケータイを取り出して、電話帳を開く。
フォルダには、おかんと担当者の山中さんしか登録してない。あ、あと、近所のおばさん。
…いつ見ても寂しさを感じるが、まぁしかたない。
「…あっ。」
ケータイを落としてしまった。
坂道のため、転がりながら落ちていく。
「ま、まって…!」
急いで走るも、追いつかない。
…ケータイにじゃなくて、僕の足が。体が坂道について行かない。
「うわっ」
転んでしまった。人が居るのに。
クスクス…クスクス…
ねぇ、みてみてあれ…、ダサくない?
てか、くらーい。そんなに前髪長くするから転んじゃうのよー。
やぁだ、聞こえるってエリ!
聞こえるようにいってっからねぇー。それよりさぁ、早くオケ行こーよー。
あっ、予約した時間とっくにすぎてるし!やばー!
マジ!?はよいこはよいこー!
「………」
ぱんぱんと、服に付いた砂や石つぶを払い落とす。
いつものことだ。気にしない。
暗いとか、ダサいとかは言われ慣れてるから。
でもやっぱりまだ、周りの可哀想なものをみる目は慣れない。
僕は急いでケータイを拾って、走り出す。
臆病な僕は、睨むことも何か言うこともできないから。逃げることしかできないから。
はぁ……はぁ。つ、疲れた…
走るのなんて、いつぶりだろ。
………………よし、だいぶ息も落ち着いた。
とりあえず、おかんにメールしよう。
To おかん
Sub 今日のご飯なに?
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小説、出版されることになった!\(^o^)/
あとで、その小説の下書き見せるね(〃'▽'〃)
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「送信っと…」
あーなーたーの髪の毛ありますかー
ありますかー
あります(ピッ)
「返信はや…」
ちなみに今のは着メロ。担当の山中さんがくれた
ものだ。山中さんが歌って録音した物らしい。
To 息子
Sub Re:お寿司よー(^^)
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やったじゃない、おめでとー((((*゜▽゜*))))((((*゜▽゜*))))!!
お母さんもね、びっぐニュースがあるの!早くかえってらっしゃいね♪
PS なにを見ても驚いちゃ駄目よ?
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え、なにこの意味深なPS。怖い。
おかん、昇給したのかな…?だからお寿司とったとか…。
……、帰ろ。
これが、僕の平凡な日常です。
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