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小説




あれ以来、彼女は何度も俺に電話を掛けてくる。
ろくに話も聞かずに電話を切ってしまったから、きっと心配してくれているのだろう。


あいつは、祖母と二人きりで生活していた。
両親がいない訳ではないらしい。
家庭に何か事情があるようで、詳しく聞きはしなかったが、二つ年下だという弟の話をするときだけは、とても楽しそうな顔をしていた。


あいつの律儀な性格はおばあさん似なのかと思いながらも、俺は一度も電話に出ていない。
頻繁だった電話は徐々にその回数を減らしてきていたが、今日この日には必ず掛かってくるだろうと半ば確信していた。



――ヴー、ヴー



「………」



いまだ震え続ける携帯を、元の場所に戻す。
今日も、出るつもりはない。
いくら相手に申し訳ないという気持ちを持っていようと、この電話に出てしまえば、あのことが事実になってしまう。


俺はまだ、あいつが死んだだなんて、これっぽっちも信じてはいない。


永遠に震え続けるかと思えた携帯は、数分でその振動を止めた。
ほっと息を吐き、電車を二回乗り継いで、自宅の最寄り駅に到着する。


ここからの道程では、いつも期待と恐怖で押し潰されそうになる。
家に帰るとあいつが出迎えてくれるんじゃないかという期待と、もうあいつとは一生会えないんじゃないかという恐怖。


そんな二つの気持ちを抱えながら、携帯の代わりに震え始めた自分の手を一度握り締め、俺は自宅の扉に手をかけた。





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あきゅろす。
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