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小説







(今日で、丸一年……)



あいつが、姿を見せなくなってから。
そして、あいつが死んだとされる、あの日から。


一年前の俺は、美大を目指して必死に勉強していた。
心の底では水彩画家になることを夢見ていたが、自分の実力を考えると高校の美術教師が精一杯だと思っていた俺に、あいつは諦めるなと叱咤してくれた。
けれど、今の俺はただのフリーター。
高校時代のコネで、美術館の監視員のバイトが出来ていることだけが、唯一の救いなのだろう。



(はぁ…)



今日も、特に何事も起きないまま、淡々とバイトを終えた。
お客さんから展示されている絵についての質問を受けても、分かりませんという気のない返事しか出来ないため、そこでの俺の評判は頗る悪い。
クビになるのも、時間の問題かもしれない。


何もやる気が起きないんだ。
大好きだった絵を前にしても、まるで、ちっとも。



――ヴー、ヴー



ちょうど美術館の従業員用出入り口を抜けたとき、ジーンズのポケットに入れていた携帯が遠慮がちに震えた。
取り出して、発信者を確かめる。
そこに表示されているのは、この一年で見慣れた十桁の番号。


あいつの、おばあさんからだ。





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あきゅろす。
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