小説
8
それは、あの運命の日の翌日のこと。
空手で大量の汗を流した俺は、部室の狭いシャワー室で身体を清めてからコンビニへと向かった。
汗臭い男は、多分よろしくない。
そして、そこで目にした光景。
二つあるレジの片方に、行列が出来ていた。
セーラー服を着た女子中学生、真面目そうな大学生らしき青年、スーツを身に纏った中年の男まで。
隣のレジで暇そうにしているママさん店員は、またか…とでも言いたげにあくびをしていた。
「わぁ、手がすっごくきれー!指長ーい!」
「そ、ですか?アリガト、です」
「僕は君と同じ大学の者なんだけれども、木曜日の生化の講義はとっているかい?」
「あ…ぼく、文学部だから、とてないです」
「こ、今週のシフト…教えてもらえる、かな…?」
「はい、えと…」
などなど、まだ慣れぬ手つきでレジを扱う彼は、かなりの人気者だった。
中年の男が聞き出したシフトをしっかりと頭に叩き込みつつ、プリン片手に俺も列の最後尾に並ぶ。
自分の番が来るまで散々悩んだ末、やっぱり一番知りたかったのはこれだ。
「名前、教えてください」
「あっ、こんばんは!」
俺の顔を見た瞬間、ふわりと、しかし華やかに笑った彼に、華という字の付く「華倫」という名前はぴったりだった。
その上、俺のことをちゃんと覚えてくれていたことに、表情が固いと言われる俺の頬の筋肉も自然と上がっていたことだろう。
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