小説
5
「あ、俺兄貴に牛乳買ってこいって頼まれてるから、コンビニ寄ってくわ」
「スーパーの方がお得だぞ」
「あそこまで行くの、面倒くせーし」
「そうか。……俺も行こう」
急にプリンが食べたくなった。
プリンは俺の大好物だ。
デパートの地下で売られているような高級品ももちろん好きだが、コンビニで売られているものだって捨てがたい。
最近は種類も豊富だしな。
――ピポピポピンポーン
コンビニのドアを抜けた瞬間鳴り響くチャイムに、その発信源を無意識に探る。
毎度思うことだが、このチャイムは騒がしい。
客が入って来たと店員に知らせて、「いらっしゃいませ」と声をかけるための合図のようなものかもしれないが、その挨拶は決まって無愛想で――
「いらっしゃいませ!」
「………」
ふんわりと花が咲くような笑顔。
風鈴のように涼しげで、透き通った可憐な声。
プラス、黒髪色白。
――スタスタスタ
――ガシッ
「あっ!……え?」
掴んだ肩は、華奢だった。
「お、俺の彼女になってくれ」
俺はまた、大和撫子に恋をした。
コンビニの店員。
見た目は大学生くらい。
「だからさ、直球すぎるのは駄目だって。まぁ、告白は別かもしんねぇけど。…つーかその人――」
男だってこと、分かってる?
佐川の声は、“彼”の美しさに霞んで消えた。
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