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小説




そのときは、彼も俺の姿を見て何かを感じ取ったのかと思っていたが、彼にその言葉を紡がせたのは、伝票に記載されていた俺の名前だったらしい。
彼の母親であるあの人、百合子さんは、彼にすべてを話していたのだ。
本当のお父さんは他にいるのよ、と。
そして、俺の名前も。


大心地(オゴロチ)という一風変わった俺の名字が、彼に俺の正体を伝えた。
「お父さん」というその響きが、何故か堪らなく嬉しかった。
けれど、彼が俺をそう呼んだのはあの一度きり。
その後、少しずつ顔を合わせる機会が増えると、彼は俺のことを「章介」と呼ぶようになっていた。


本当はもう会ってはならないのだということは分かっていた。
でも俺は、もう一度彼の口からあの言葉を聞きたかった。



「お父さん」



ただ、その一言を。



そのためにひたすらピザを注文して、彼がやって来るのを待った。
もちろん、いつも彼が届けてくれるとは限らない。
ピザが届くまでの数十分間は、ひどく落ち着かなくて。
ドキドキと高鳴る心臓が、別の意味で波打ち始めたことに気付くのが遅れてしまったのは、俺のミスだ。





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