[携帯モード] [URL送信]

小説




「なんか言いだしにくくって!」



彼女は明るくそう言った。
天真爛漫な年上の女性。
すべての事情を知りながら、静かに彼女の隣に立つ大人の男性。
彼を「パパ、パパ」と呼び慕う、幼い男の子。


幸せそうな家庭。
そこに、俺は必要なかった。
必要とされてはいけなかった。


帰り際、お幸せにと声をかけると、彼女は他の二人に気付かれないくらいの小さな声で、ごめんなさいと囁いた。
俺にはそれで十分だった。


それから、15年。
周りの友人達が次々と結婚していく中で、特に浮いた話もなく独身を通してきた俺。
そんな俺の前に現れたのが、ピザ屋の制服に身を包んだ亮太くんだったのだ。


一目で分かった。
勝ち気な目、艶やかな黒髪。
彼女にそっくりだった。
唯一、薄い唇だけが、俺の血を感じさせた。
この子は俺の息子に違いない。
制服に縫い付けられた名前を見て、それは確信に変わった。


だからと言って、何か行動を起こすつもりはなかった。
けれど、彼は…亮太くんは確かに言ったのだ。



「お父さん…?」



俺に似た、その薄い唇で。





[前へ][次へ]

5/63ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!