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小説




「あ」

「あ、征幸くん。また会ったね」

「…どうも」



俺が道路に出たと同時に、向かいのボロアパートからも一匹のちっこい犬と一人の人間が出て来る。
愛しのちび…と征幸だ。



「今日も朝から、ですか」

「うん、ビッグがどうしてもって様子だったから」



ちびは俺を見つめながらブルブルと身体を震わせている。
そうかそうか、そんなに俺に会いたかったんだな。
可愛い態度で俺への気持ちを表してくるちびに飛び付きたい衝動に駆られるが、今日はそうしてやることも出来ない。
もちろん、作戦のためだ。


俺は早速実行に移そうと、後ろにいるミケに擦り寄ろう…としたら、なんとミケの方から寄ってきて俺の前足にスリスリと頭を擦り付けた。



(こいつ、分かってんじゃんか)



俺もここぞとばかりに身体を寄せ、愛しそうな目でミケを見つめてやる。



「あれ…」



始めにそれに気付いたのは征幸だった。



「その猫…」

「ああ、この子は近所に住んでる子で、どうやらビッグに懐いているみたいなんだ」



ご主人、ナイス!
きっとこれでちびも焦るに違いない。
俺はちびの寂しがる表情を期待して、奴の方へと目を向けた。





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