小説
9
「お待たせ。はい、どうぞ」
「ありが…ってこれココアじゃねーか!俺はコーヒーって…」
「俺がココア飲みたくなっちゃったんだ。今日はそれで我慢してくれる?」
「……まぁ、別にいいけど…」
両手でマグカップを包み込むように持ち、フーフーと息を吹き掛ける亮太くん。
彼は、猫舌だ。
普段の態度とも相まって、俺にはまるで本物の猫のように見えてしまう。
「美味しい?」
「…まあまあ」
そう言いながらもココアを口にしてホッと息を吐く彼は、なんだか幸せそうだった。
外は随分と冷えているようだから、甘く暖かい飲み物は、今の彼にぴったりだったに違いない。
「で、課題って何出されたの?」
「これ…化学」
マグカップをテーブルに置き、亮太くんが鞄から取り出したのは、化学の教科書と数枚のプリント。
プリントを受け取って内容を確認してみると、どうやら無機分野のようだった。
「化学反応式の穴埋め問題かぁ…これ、いつ提出?」
「…明日」
「そっか。じゃあ急いで仕上げないとね。俺が教科書で参考になるページを探すから、亮太くんはそれを覚えながらプリントに書き込むんだよ?」
「分かった」
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