小説
8
「いらっしゃい」
「……別に、お前に会いに来た訳じゃないから。ただ、お前が課題手伝ってくれるって言うから…」
「うん、分かってるよ。ほら入って?」
「…お邪魔します」
普段は口が悪いけれど、礼儀正しく挨拶をして脱いだ靴まできちんと揃えるところは、百合子さん達両親の努力の賜物だと思う。
先程とは違う制服姿で俺の後を居心地悪そうについてくる様子が、なんだか可愛くて仕方ない。
「……相変わらず、スゲー部屋。一人で住むには広すぎ」
「何なら一緒に住んじゃう?」
百合子さんの実家は結構な田舎にあるが、亮太くんの将来を考えて、彼が小学校に入学するのを機にこの街に戻ってきていたらしい。
そうでなければ、俺が亮太くんと再会することはなかった。
彼女の判断に感謝だ。
「す、住まねーよ!」
「まぁそれは亮太くんが高校を卒業してから、かな」
「だから住まないって!」
「はは、分かった分かった。それより、飲み物何がいい?」
「……コーヒー。ブラック」
「ココアじゃなくて?」
「…っコーヒーでいい!」
「うん、了解。じゃあちょっと待っててね」
亮太くんは、甘いものが好きだ。
けれどそれを恥ずかしいことだと思っているのか、素直に口に出すことはない。
本当はブラックコーヒーなんてものが苦手なこと、俺はちゃんと知っている。
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